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私と葺合高校 ~OB・OGは今~


第5回 徳原 徹 君(カナダ・エレクトロニックアーツ勤務)
平成9年3月 英語科卒業
慶應義塾大学環境情報学部および同大学院を経て現職


 今年2014年は4年に一度のワールドカップの年ですね。私の働いている職場でも6月に向け、自国の旗を机の上に掲げたりするなど、盛り上がりを見せ始めています。シーズン中ともなると、会社中のテレビで一斉にサッカーの試合が流れ、仕事中にも関わらず、ゴールを決める度にあちらこちらで歓声の声が聞こえてきたりします。また、週1回は職場にある広いサッカー場や、室内の様々なスポーツ施設で同僚とスポーツをしたりする、とてもエネルギッシュな職場です。一体どこで働いているのかと思われるかもしれませんが、現在は、アメリカに本社があるEA(エレクトロニックアーツ)という会社で、FIFAのコンピュータゲームを開発するチームに属しています。私が働いているのはカナダのバンクーバーにあるスタジオですが、バックグランドが異なる人たちが世界中から集結し、1つのゲームを作っているわけです。中には元ジャマイカ代表のプロ選手もチームにいたりします。サッカーをする人から創り手に転身したんです。仕事中は非常に頼れるプロデューサーなのですが、彼とサッカーをすると、彼はあっという間にボールを取ったかと思うとシュートを決めるので追いつくのも大変です。遊んでいるようですが、これもゲーム作りのヒントになることがたくさんあるのです。

 私の専門は「物理エンジン」という分野です。難しそうに聞こえるかもしれませんが、簡単に説明すると、例えばサッカーボールが選手の元に飛んで来たとき、ボールはどう跳ねるのか、身体のどの部分を使ってどういう動きをするのか、選手同士がぶつかった時、どういう角度で倒れるのか、あるいはバランスを崩してしまうのか等を、物理計算によって導き出します。力学の計算を用いて、コンピューターで再現できる様々な現象について、日々チームの仲間たちと一緒に考えたり、プログラムを構築したりしています。

 FIFAチームに配属される以前は、EAの数多くのスポーツゲームの中で共通して使用される、中枢部分のシステムの開発に携っていたので、アカデミー賞受賞者や特許取得者など、様々な分野の第一人者と呼ばれる優秀な方々と一緒に仕事をする機会が数多くありました。世界中からモノ作りが好きな人たちが集まって来ているのでやはり刺激がありますね。試行錯誤を繰り返しながら何かが完成して行く過程は、いつもワクワクするような感覚がたくさんあります。
 
 私は、5歳から9年間、アメリカに住んでいました。小学生の頃、アメリカで人気だった簡単なプログラミングができる雑誌を父親に買ってもらい、その頃珍しかったコンピューターを使って、プログラミングをして音楽を鳴らしたり、絵を描いたりしていました。宇宙船で敵を撃ち落とすゲームとかも作っていましたね。その頃は漠然と、「将来は こんな仕事がしたいなあ」と思っていましたが、夢が具体化したのは、実は英語科での、ある授業がきっかけだったのです。

 私は国際科の前身の英語科に在籍していました。英語科ではとにかく英語漬けの毎日でした。もちろん言語としての英語を勉強する授業もあれば、朝、テレビで見た世界のニュースがその日の授業の題材になったりもしましたね。英語科は、授業を「受ける」というより、自発的に様々なテーマに対して調べたり、考えたり、話し合ったりすることが非常に多かった気がします。そうすることによって自然と問題意識が生まれてくるわけです。例えば人権問題のテーマを取り扱う際には、教科書を開いて一行ずつ訳しながら学ぶのではなく、LL教室で 「シンドラーズリスト(邦題:シンドラーのリスト)」という映画を全員で観るところから始まります。映画を通じて事実を知ることによって、その人のことをもっと知りたい、時代背景について調べてみたいという人も出てくる。それがもっと勉強したいという意欲につながっていくわけです。

 私の場合は、英語科の授業の中で、あるテーマについて調べているうちに、とても興味をそそられる一冊の本に出会いました。荒俣宏著の「VR冒険記」といって、バーチャルリアリティ(仮想現実)の技術を題材にした本ですが、まるでドラえもんの「どこでもドア」のような技術の可能性に強く魅了されました。その本に出会ったことがきっかけで、3Dコンピュータグラフィックスに興味を持ち、慶応義塾大学の環境情報学部に進学しました。在学中はアメリカの会社でインターン生として働き、その経験から、卒業後は海外で自分の実力を試したいと思うようになりました。そして大学での友人との出逢いがきっかけで、EAのバンクーバーで自分の専門分野の求人募集があることを知り、今の仕事に就くこととなったのです。
 
  海外で働くと聞くと、英語は完璧じゃなくてはいけない、私には無理だ、と思うかもしれませんが、必ずしもそうではありません。大切なのはやる気、そして夢を実現させようとする努力、そして自分の手でチャンスをつかみ取ることです。私の同僚の中には英語が完璧でない人もいます。しかし彼らのスキルの高さ、新しい物を次々と創り出していく姿勢、失敗を恐れずどんどん発言していく積極性はとても尊敬していますし、お互いに刺激し合える大事な仲間です。

 私の通った葺合高校の英語科の授業は現在の国際科に引き継がれています。国際科で学ぶこと、経験することは必ず社会に出て役に立ちます。授業で多種多様なトピックを英語で学べること、エッセー、ディベート、ディスカッション、スピーチ、プレゼンテーションの経験等、ここまで本格的に社会で役立つことを授業で取り入れてくれる学校は他に聞いたことがありません。将来自分がやりたいことを見つけたとき、チャンスが掴めそうなとき、力を発揮出来るよう備えてくれるのが国際科のカリキュラムであると思います。

 どうか高校生活1日1日を大事にしてください。たくさんのことを吸収していって下さい。そして私の後輩となる皆さんが、1人でも多く世界で自分の力を試すためにチャレンジしてくれたらとても嬉しいなと思います。