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私と葺合高校 ~OB・OGは今~



第7回 
石村 史さん (東京大学職員)
平成19年3月 国際科卒業
国際基督教大学、イリノイ大学留学、明治大学大学院を経て現職


石村史さん        

 葺合高校卒業から8年経ち、現在私は東京大学職員として研究支援を中心とする業務にあたっています。大学には大別して研究と教育の2つの機能がありますが、私が携わっているのは研究費の獲得や研究設備の管理など、大学の先生や研究者が自分たちの研究を進めるためのサポートの部分です。振り返ってみると、私が研究活動のおもしろさに惹かれ現在の職を選んだ理由には、葺合高校での3年間に得た経験や知見が深く関わっていることがわかります。


 葺合高校在籍中、私はそれまでにないほど多くのことに挑戦しました。1年生の夏には語学研修でニュージーランドに2週間ほど滞在し、人生初の海外生活を経験しました。そのわずか2ヶ月後には、高校生親善大使として神戸市の姉妹都市であるシアトルを訪問し、シアトル市長と面会するなど貴重な時間を過ごしました。


 海外体験だけでなく、日本国内で開催される英語のスピーチコンテストなどにも積極的に参加しました。1日のうちに英語とスペイン語のコンテスト2つをハシゴしたことは、今でも印象に残っています。また、入学時から3年生夏の引退までソフトテニス部に所属しており、朝練から夕方遅くまで真っ黒に日焼けしながら毎日テニスに打ち込んでいました。


 このように様々な活動に従事し、自分とは違う視点や価値観を持つ人たちと日常的に交流する中で、私は「世の中の至るところに存在する多様性」に気づきました。当時は、未知の文化や考え方に触れることが純粋に楽しく、楽しいがゆえに新しく出会う多様性をそのまま吸収し受け入れていました。


 葺合高校卒業後、英語での学習・研究環境が整備された国際基督教大学に進学し、幼少時より関心のあった考古学を専攻しました。大学では、アメリカ南部ニューメキシコ州にある国立公園で文化遺産に関するインターンを2か月間行うなど自らの研究テーマに関連して海外渡航する機会が増え、3年生の夏からは1年間イリノイ大学アーバナシャンペーン校に単位互換留学しました。イリノイ大学では留学期間終了後も夏休み中の発掘調査に参加し、アメリカ先住民の考古学に対する理解を深めました。帰国後、卒業論文でイリノイ州の世界遺産であるカホキア遺跡を扱い、このテーマについてさらに研究を進めることを決めました。


 大学で研究のおもしろさに気づいた背景には、自分の考えを生成する下地が作られたことがあります。大学では、十人十色の意見をそのまま鵜呑みにするのではなく、本当にそうなのかという疑問を常に持つことの重要性を学びました。つまり、葺合高校で気づいた多様性に対し、その存在を無条件に受け入れる前に一度自分の頭でプロセスする必要があるということです。この作業を経ることにより、社会にあふれる大量の情報や価値観の中で「自分はどう考えるのか」を明確にすることができます。


 さて、上述のような大学での学びの効果なのか、アメリカ考古学の方法論や問題意識に対して疑問を抱いていた私は、日本考古学を牽引する明治大学の大学院に進学し日本の視点からアメリカ先住民遺跡を分析することに決めました。考え方の全く違う2つの文化の間に立って研究することは簡単ではありませんでしたが、ここでは「多くの人に説得力を持って分かりやすく自分の考えを伝えるにはどうしたらよいか」、つまり「自分の考えをどう発信するか」ということを学びました。このスキルはもちろん、現在の勤務先である東京大学でも大いに役立ちます。効率よく仕事を進め、かつ大学に関わる様々な立場の人たちとスムーズなコミュニケーションをとる必要があるからです。


 こうして見ると、葺合高校で学んだ価値観の多様性やそれを基に大学で習得した柔軟な思考力がなければ、私が研究のおもしろさに気づき、研究活動を支えるための仕事に就くこともなかったと思います。まさに葺合高校での充実した国際経験と整備された学習環境があったからこそ、選択することができた道ではないでしょうか。