神戸の自然シリーズ3 神戸のシダ
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 コモチシダ
−谷間の崖や岩場にすだれをかけるシダである。−(12月)

 コモチシダほ、日当たりのよい崖や岩場によく生えるシダである。神戸の六甲山地では各地に見られる。このシダも風化のはげしい神戸の山と結びつく代表的なものの一つである。

 根茎は短くはう。葉は接近して出、長さ1−2mにもなって垂れ下がる。その姿は崖にそっとかけた緑のすだれのようだ。

 太い葉柄の基部には、大形で褐色の鱗片を多くつけ、葉面には夏から秋にかけて無性芽(不定芽ともいい、地に接すると根や葉を生じて、1個の独立苗を作るもので繁殖法の一つである)を多くつける。子持ちのシダということから、コモチシダの名がついた。

 実際、自生地で葉の表面についた子どもの無性芽は、落ちて生育するのだろうか。

 かつて、無性芽を10個あまりつけた葉のみを採集してきて、栽培鉢で無性芽が育つかどうかを調べる実験をしたことがある。土を入れた鉢の中に無性芽のついた葉を入れ、葉の上にはひどい乾燥を防ぐようにミズゴケをかぶせておいた。鉢は温室に置いたりせず、雨風のあたる外に置いておき、特別に水やりなどの世話もせずに置いておいた。1か月たった12月上旬には、無性芽をつけた葉は枯れはじめたが、幼芽は葉から離れ落ちていた。4月になって、12個のうちの7個の幼芽は根を出し、葉をふやしはじめた。順調に育ち、1年後にはかなり大きく育ってきた。

 この経験から、コモチシダの小さい芽が地上に落ちても、環境が特別悪くなければすべての無性芽が枯れることはないと思われるが、実際はどうだろう。

 コモチシダが生えているのは、崖のようなところで、このような場所に生えるのは無性芽が落ちて育ったのではないようである。落ちれば谷のようなところにも育つはずである。ところが谷筋に育つことは少ない。コモチシダはむしろ胞子でふえることの方が多いのではないだろうか。

 このコモチシダのように、無性芽をつけるシダはかなり多い。しかし、無性芽をつける場所は、同じではなく、種類によってそれぞれ決まっている。


 ホソバイヌワラビ・ヒメイワトラノオは、中軸羽軸につき、ヌリトラノオは葉の先がちぎれたようにつく。また、葉の先端が長くのびてつる状になって、そのさきに無性芽をつけるツルデンダ・カミガモシダ・フジシダ・オオフジシダ・クモノスシダなどがある。

 無性芽でふえるのは栄養繁殖の一形であるが、根茎をのばしてふえるのも栄養繁殖にふくまれる。根茎でふえるシダは、胞子でふえるよりも短期間内に大きな群落をつくっていく。市街地に生えるホウライシダ、暖帯林下に生えるホソバカナワラビ、向陽地に生えるコシダ・ウラジロ・ワラビは根茎でもどんどんふえる。タマシダ・クサソテツはのびた根茎から芽を出し、新しい株をつくる。

 コモチシダの葉面は、革質で厚く二回羽状に深く切れこんでいる。羽片は写真でみられるように皮針形・長楕円形で、さきは鈍く尖り、基部は上下ずれていて短い柄があり、上の方の羽片中軸に流れる。葉脈は主脈に近いところで非常にかわった網目をつくり、その外側には、さらに小さい網目があり、末端は遊離している。

 胞子のう群は、裂片の両側の網の目の深いくぼみの中につくが、包膜胞子のう群をだき込んで、くぼみのふたになっている。革質で、永久的な包膜である。内側向きに開くようについている。

 このシダの分布は、日本では北は宮城県から南は屋久島までである。現在では、暖温帯以南に分布するシダだが、かつては北海道にも繁茂していたらしい。このことは北海道の石狩・夕張炭田を堀り、炭層をつくった堆積層の化石を研究した結果、コモチシダの化石が多量に出てきたことから実証されており、この化石層にコモチシダ層という名がつけられている。

 神戸では各地に分布するが、垂直分布では300m以下の低地である。花崗岩の割れ目に多く生えるが、垂水・塩屋付近の大阪層群の砂礫地の露頭にも、しばしば群生する。

 コモチシダは、なぜ崖のようなところに多く葉面を垂れ下がらせて生えているのだろうか。生育に都合のよいことは何だろう。

  1. 向陽地を好むシダであるから、平地の森林内では高木の樹木類におおわれ、日光が不足すると枯れてしまうのではないか。
     
  2. 大形で長い葉柄と、広く重い葉面を斜上、あるいは水平近く広げているとなると、葉柄はよほど太く、丈夫なものでなければならないし、たとえそうであっても、雨などの重みが加わると地面にたたきつけられる。
     
  3. 葉が垂れ下がっても、光をよく受けられるところは谷筋の急な斜面しかないのではないか。(伊藤洋「シダ学入門」ニュー・サイエンス社 158ページ)
 このコモチシダによく似ていて、もっと大形で羽片も大きく、深く分裂し、小羽片が長く、細く尖って尾状にのびるハチジョウカグマというシダが四国・九州の南部に生えている。

 また、コモチシダ・ハチジョウカグマに似るが、芽立ちが紅色を帯び、葉面に全く無性芽をつけず、上部羽片のつけ根に鱗片でおおわれた大きな芽をつけるハイコモチシダがある。伊豆・西伊豆地方にはこれらコモチシダ・ハイコモチシダが多く自生するが、この両者の間に中間の特性をもったイズコモチシダという雑種のシダもある。


 葉 脈
シダ分類上の大切な形質である。葉脈が葉面に描き出す模様のことを脈理というが、シダには多くの脈理が見られる。
 (1)遊離脈
枝分かれしたまま結び目をつくらないもの。コケシノブのように終裂片では葉脈が単生するものから、二又分枝羽状分枝になるものまである。
ホウライシタ・ベニシタ・ワラビ・オシタ・コタニワタリ
 (2)網状脈
脈が他の脈といろいろなていどに結合するもの。網目の数・形・さらにその中に遊離脈があるかどうかによって多くのタイプに分けられる。
(図、岩槻邦男「シダ類の脈理と分類」より)

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