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1-2.神戸でみられなくなったトンボたち |
ここでは,現在,神戸でみようと思ってもみることができない,あるいは非常にみつけるのが難しくなったトンボを紹介します.そして,その理由を考えることによって,神戸の水辺環境の変化にどのような特徴があるかをさぐってみましょう.
すでにお話ししたように,神戸では89種類※のトンボが記録されています.このうち,いわゆる飛来種といわれる,たまたま遠方から飛来したと考えられる種が少なくとも4種類※あります.すなわち,オオギンヤンマ,タイリクアキアカネ,アメイロトンボ,ハネビロトンボです.これらのトンボはもともと神戸にすんでいたわけではありません.
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写真1-10.アオハダトンボ.北区道場町.日浦勇氏採集.大阪市立自然史博物館所蔵.(掲載許諾済) |
写真1-11.船坂川で採集されたキイロヤマトンボ.山本哲央氏のご厚意による. |
次に,神戸で今までに非常に記録の少ない種が3種類あります.これらは,アオハダトンボ,ヒメクロサナエ,キイロヤマトンボです.このうちヒメクロサナエはたった1頭の記録ですが,ごく最近の,しかも幼虫での確認なので,現在も神戸に生息していることはまちがいないと思われます.それに対して,アオハダトンボの記録は1959年5月25日,日浦勇氏によって北区道場町で採集されたオス1頭1回のみ.キイロヤマトンボの方は,やはり同日同氏によって当時の国鉄道場駅から千刈水源地への道沿いで採集されたメス1頭の記録と,1992年6月28日,山本哲央氏によって道場町の船坂川で採集されたメス1頭の2回だけです.
これら2種はいずれも清浄な河川の中流域に生息するという共通点があります.道場町を流れる武庫川上流の三田市にはキイロヤマトンボが,また千刈水源地へ流れ込む武庫川水系の川にはアオハダトンボが現在でも生息しています.道場町の武庫川は,これらのトンボが生息しそうな外観は今も残されていますが,現在アオハダトンボやキイロヤマトンボがいる河川と比較すれば,決して川の状態はよいとはいえません.
これらのことから類推すると,この2種はかつてはこのあたりに生息していたが,水質汚染を中心とした河川の環境変化にともなって分布域を上流の方へせばめ,神戸市内から姿を消したと考えられます.ただしキイロヤマトンボについては最近の記録があるわけで,飛来個体の可能性があるものの,ひょっとしたらどこかで細々と世代をつないでいるということはありうることです.
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(次ページへ続く) |
※改訂註:現在はメガネサナエを加えて90種類.
※改訂註:メガネサナエを加えて飛来種は5種類. |