新・神戸の自然シリーズ1 神戸のトンボ
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(1-2.神戸で見られなくなったトンボたち の続き)

 マダラナニワトンボオオキトンボは播磨の平野に広く分布していた種です.オオキトンボの方は今でも播磨の農業用ため池で結構その姿をみることはできますが,マダラナニワトンボの方はそこでもかなりみつけるのが困難になってしまっています.

 マダラナニワトンボは神戸では1960年代に櫨谷町福谷から松本にかけて集中的に記録があります.そのころ採集をされた東輝弥氏に聞くと,県道から見えるため池に入っていくと無造作に止まっていたといいますから,数がかなり多かったようです.しかし,1980年代には相当に発見が困難になってしまったようで,本書に貴重な写真を提供してくださった北川弘美氏は,1984年から3年間通ってやっとみつけることができたといっておられます.私が神戸でこの種を採集したのは,後にも先にも1990年に西区押部谷町高和で採ったメス1頭のみです.これ以後の記録は私の耳には入っていません.この種は,皿状の池や,池の浅くなだらかな岸辺の部分を好み,産卵は水があるかないかというような水ぎわの草地でおこないます.櫨谷川と伊川の間の丘陵地にはこのような条件の池が点々とあったようですが,西神南団地の開発と関連工事で多くが失われました.

 オオキトンボは1960年代に,西区押部谷町,玉津町という記録があります.また1971年に北区道場町でも記録されています.私は1991年に西区玉津町で10月4日,18日,11月12日と3回,のべ7頭を目撃しました.この年以前のこの付近の調査を行っていないこと,またこの年以降にはまったくみつけていないので,これがこの年をさかいに姿を消したものか,この年だけの発生だったのかはわかりません.多産地へ行って観察すると,このトンボは広い草原の中をあっちへこっちへとよく飛びまわります.とくに未熟なころはそういうところでエサをとったり,ひなたぼっこをしてすごしています.都会の近郊では,草原などというぜいたくな土地はまずありません.まだ何の証拠もありませんが,私は,こういう成虫のすごす環境が失われることもトンボの姿がみられなくなってしまう一因ではないかと考えています.

写真1-14.1987年に櫨谷町で撮影されたマダラナニワトンボ.(北川弘美氏撮影). 写真1-15.1991年に玉津町で発見されたオオキトンボ.

 最後に,現在神戸で生息していることがたしかなトンボのうち,その産地がわずかしか残っていないものを紹介しておきます.ベニイトトンボグンバイトンボコバネアオイトトンボオオカワトンボムカシトンボムカシヤンマヒメクロサナエオナガサナエネアカヨシヤンマルリボシヤンマキトンボの11種類です.これらのトンボも,その生息地の環境が好ましくない方へ変化すれば,姿を消す可能性が十分にあります.

 人間の自然に対して行っているはたらきかけは,全国どこでもにかよっています.例えば,大きな川の風景は全国みな同じですし,山間部では小さな川までコンクリートで護岸しようとします.道路は,人家のこみ入っているところをさけ,人のすんでいない山林を切り開いてつけられます.広々とした草原は開発しやすく,すぐに利用されてしまいます.湿地は排水施設を整えれば簡単に利用可能な土地になります.平地にある池は,人口が増えてくるとまず田畑がつぶされて家が建ち,その結果池もいらなくなって埋め立てられます.土地がなくなってくると次にねらわれるのは丘陵部です.でこぼこをならして宅地がつくられます.

 これらの行為の是非を論じることは本書の目的ではありません.しかし確かなことは,全国から同じような風景が消えていっているということです.このことはその風景とともにくらしてきた生きものが失われているということでもあります.ここで紹介したのは,すべてこれらの風景の中にいたトンボたちです.神戸でみられなくなったトンボたちはやがて地方でも減少していく可能性を秘めています.逆にいえば,これらトンボたちの盛衰は変化している環境のバロメータであるといえましょう.このあと,神戸で記録されたトンボ全種のプロフィールを紹介します.みなさんも,ぜひかれらの現状から,神戸の自然の状態をかいまみていただきたいと思います.

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