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3-5.ふ化と前幼虫のはなし |
成熟した胚は時期が来ればやがて卵殻をやぶって外に出てきます.これがふ化です.幼虫が卵から出てくるためには,卵殻をやぶらねばなりません.脱出しようとする小さな幼虫にとって,卵殻はその前に大きく立ちはだかる障害物です.しかし自然はうまくできており,脱出しようとする幼虫の頭部に,卵殻を切り開く刃物を用意してくれています.これは卵歯といわれます(写真3-1).またイトトンボのある種では,幼虫が卵内の水をすいこみ,頭部にその圧力を集中させて脱出を助けるようなものもあるといいます.
ふ化のとき卵から出てくる幼虫はまるでエビのようで,いわゆるヤゴとはほど遠い形をしています.そこでこれを1齢幼虫とせずに前幼虫とよび,次に脱皮した幼虫を1齢幼虫とよぶことがあります.外国の研究者は,前幼虫もれっきとした幼虫であるとして1齢と数える場合が多いようです.ですから,日本の論文と海外の論文では,齢の数字が1つちがう場合があり注意を要します.この本では前幼虫としてあつかうことにします.
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水中に産み落とされ,水中で発育を完了した卵の多くでは,ふ化した前幼虫が卵から完全に脱出する前に引き続き次の脱皮が起こり,1齢幼虫が出てきます.しかし水面より高い位置の植物内に産卵されるアオイトトンボ,ムカシトンボ,アオヤンマなど(写真2-19,22,24,31参照)では,前幼虫は卵から出て下に落ち,そこに水がなければはねまわって水辺にたどり着くといわれています.そして水に入ってから少しして1齢幼虫への脱皮が起きます.
飼育観察によると,ムカシトンボで50cm,アオヤンマで20cmの距離をはねたという記録があります.前幼虫の大きさはムカシトンボで2mmほどですから,この場合自分の大きさの250倍もの距離をはねていることになります.またアオヤンマで,前幼虫を実験的に水のないところにおいたところ,ずっととびはね続け,14時間たってから水につけても無事1齢幼虫に脱皮したといいます.
水のないところに落ちた前幼虫はとくに方向性を意識してとびはねているのではなく,適当にはねている間に水辺にたどり着くのだという説があります.これは水のあるところというのは必ずまわりより低い位置であって,はねている間に自然と低い方へいってしまうのだという考え方が根拠になっています.メスは,通常あまりにも水辺から離れたところには産卵しませんから,この考え方は正しいかもしれません.
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