神戸の自然シリーズ11 神戸港のプランクトン
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W プランクトンと市民生活

1.赤潮

太公望でにぎわう海釣公園

 青い海に飛び石のように連なる緑豊かな島々。その間をぬうように白い航跡を残して走る小舟。典型的な滞戸内の風情である。この瀬戸内を春先から夏にかけて航行すると、突如として紅色の縞模様が広がる海域に遭遇することがある。この紅い水をガラスコップに入れて透かして見ると、1ミリくらいの桃色がかった小球が無数に漂っているのがわかる。海水を紅く染めていたのは夜光虫だったのである。

 自然界の生物は正常な環境のもとでは、互いに影響を及ぼしあいながら量的に調和のとれた社会を構成している。しかし、何かその調和をくずす条件が発生すると、その条件に適合する生物が生物社会のバランスをくずして大増殖を起こす。海で夜光虫のような植物プランクトンが大増殖を起こした結果、もたらされるのが赤潮である。

 赤潮を起こすのは、夜光虫のような鞭毛藻類だけでなく、ケイソウ、繊毛虫類など種々のプランクトンが原因となっている。

 赤潮の色は、それを構成するプランクトンが固有にもつ色素粒の色や生理状態によって様々な色になる。たとえば、スケレトネマ・コスタータムなどのケイソウであれば黄褐色や茶褐色を呈し、また養殖ハマチに甚大な被害を及ぼすことで知られているホルネリアは単独で大発生した場合暗赤色というよりは暗緑色に海を変えてしまう。

 赤潮は昭和40年代の後半から急激に増加し、47年にはホルネリア赤潮により養殖ハマチ業に71億円という空前の被害を出し、赤潮が大きな社会問題となった。その後、51年を境に発生件数は減る傾向にある。しかし私たちは赤潮を海が発する環境悪化の警告とうけとめ、冷静に耳を傾け、美しい海を呼びもどすための努力を重ねる必要があろう。



2.古文書にみる赤潮の記録

 近年、頻繁に発生する赤潮。その大きな原因は現代の大量消費文明にあるといわれている。工場や家庭から大量に出される排水が海に流れ込み、それを養分としてとった植物プランクトンが大増殖し、赤潮が発生するのである。それでは、数百年あるいは数千年の昔には赤潮など発生していなかったのだろうか。

 古い文献をひもといてみると、赤潮に関する記載と思われる部分がいくつか見つかる。

 たとえば、科学的な信びょう性にはやや欠けるが、旧約聖書の出エジプト記第7章に次のような記載がある。

 主はこう仰せられます。「あなたは、次のことによって、わたしが主であることを知るようになる。」ご覧ください。私は手に持っている杖でナイルの水を打ちます。水は血に変わり、ナイルの魚は死に、ナイルは臭くなり、エジプト人はナイルの水をもう飲むことを忌みきらうようになります。・・・・・・

 水が血のごとく赤変し、魚が死んだという内容は、今日私たちが経験する赤潮現象によく似ており、当時から自然現象として赤潮が発生していたことを記載したものではないかと考えられる。しかし、この赤変が赤潮によるものか、泥土などによる水の濁りであったのか多少不明な点が残ることは否めない。これが事実、赤潮であったなら、昔の人の素朴な心には赤潮は神の怒りに映じたのではなかろうか。

 日本でも、奈良時代や鎌倉時代の古文書に海の赤変現象についての記録が残されている。

 奈良時代初期、今からおよそ1200年ほど前に記録された「続日本記」の巻11には「紀伊国阿氏(誤字)郡海水変如血。色経五日乃復」という記録がある。天平3年(731年)6月に現在の和歌山県沿岸の海域が血のように赤く変わり、五日後にもとにもどったということである。おそらく、これが日本最古の赤潮現象に関する記録であろう。また、鎌倉時代に書かれたある風土記には、「相模、伊豆等五国海水変赤、三百余里、三日復旧」と記録されている。

 これは、正和元年(1312年)4月に相模、伊豆を含む五つの国の沿岸に大規模な赤潮が発生したことを示すものである。

 このようにいくつかの古文書に赤潮に関する記録が残されているのは、汚染のなかった昔から自然現象として赤潮が発生していた事実を証明するものである。


3.毒を分泌するプランクトン

 1978年7月1日、北海道の噴火湾で養殖されたホタテ貝に毒性が検出され、市場出荷が停止された。当時ハマチ養殖とならび100億円産業ともてはやされ、大きな期待をよせていただけに関係漁民に与えたショックは計り知れなかった。このホタテ貝毒のさわぎは、同年7月3日茨城県日立市において339人が貝毒による食中毒にかかったことにより、いっそう大きくなり、一大センセーションを巻き起こしたことは記憶に新しい。しかし、貝毒事件は、何も新しい問題ではなく、二枚貝を食べて死んだという記録が過去にいくつか残されている。その中で最もひどいものは、明治22年神東川県小田和湾のカキによるものと、昭和17年浜名湖のアサリによるもので、多数の人が死んでいる。

 私たちが普段食べている貝がなぜ突然毒を持つようになるのであろうか。原因は、貝の餌のプランクトンによる場合が多い。植物分類学上渦鞭毛藻類のゴニアラックス・カテネラなどは毒素を分泌する。これを貝が体内にとり入れる。貝自身には何ら影響はない。ところが、人間には強い毒性を発揮し死に至らしめることもある。この毒素はサキシトキシン(Saxitoxn)とよばれ、化学構造もすでに明らかとなっている。一説によるとこの毒の恐ろしさは、フグの持つ毒テトロドトキシンと同程度で、1gで実に五百数十万尾のマウスを殺害できるという。プランクトンの中では最も強い毒であるといわれている。


4.人工赤潮で育てる高級魚貝類

 クルマエビと言えば、数ある水産物のなかでもとりわけ美味で、特に珍重されている。最近ますます需要が増大し商品としての価値も高く国内産だけではまかないきれず、近縁種も含めて多量のエビが輸入されている。このような情勢のもとでクルマエビの増殖の研究が国家的事業としてすすめられ、多くの研究者や技術者の努力が日夜続けられている。また、フィリピン・マレーシアなどの東南アジア諸国においてもテナガエビやウシエビなどの養殖に力を入れている。




 エビの卵はふ化してノープリウスとよばれる幼生になりプランクトン生活に入る。ノープリウスは卵黄を吸収しながら6回の脱皮をくり返し、ゾエアとよばれる幼生になる。ゾエアになると彼らは自分で餌をとり始める。この時期、自然界では海水中に浮いているバクテリアを含む懸濁物質(デトリタス)やケイソウ、その他の微小プランクトンを餌としていると考えられている。養殖場では、ゾエアの時期にスケレトネマ・コスタータムやキートケロスなどのケイソウを培養して与えている。東南アジア漁業開発センター養殖部局の本尾洋氏はフィリピン産ウシエビの子供の養殖のために、やはりケイソウが餌として重要であることを指摘している。ウシエビの後期幼生にキートケロスの一種を海水1ml中に4,000〜60,000細胞になるように与えていた。(これは自然の状態では水が茶かっ色の赤潮状態である)これが2〜3日にわたって不足すると脱皮時の後期幼生に図のような奇形が生じるという。正常な後期幼生は、第一触角も第二触角もまっすぐ前方に伸びているのであるが、この奇形は2つの触角が90度上方に曲がっている。このような奇形はすぐ死んでしまうという。この原因は、ケイソウに含まれているキチン質と関係があるのではないかと考えられているが、明らかでない。顕微鏡でなければ見えないような小さなケイソウが海にすむ多くの動物にとっては、生死を決定する重要な餌となっているのである。

■アワビ
 海鮮料理やにぎりずしになくてはならないアワビも近頃は養殖ものが多い。アワビは卵からかえると幼生の時期をプランクトンとして過ごすが、やがて岩などにくっつき、付着生活を営むようになる。各地の漁協では、アワビの人工種苗生産にとり組んでいるが、付着生活に入ると1センチくらいの大きさになるまで、ナビキュラやメロシラなどの付着ケイソウを与えて育てている。産業ベースにのせるためには、餌としてケイソウを大量に培養しなければならず、ここでもケイソウが豊かな食生法のために役立っているわけである。


5.直接食べているプランクトン

食卓にのぼるプランクトン
ケイソウの不足による触角の奇形

 軟弱な体でとらえどころがなく、ふわり、ふわりと波間を漂うクラゲ。私たちとは何の関係もない世界に住んでいる生物のようだが、中国料理にはなくてはならない材料のひとつである。三杯酢にして食べることが多く、コリコリとした独特の歯ぎわりが何とも言えない。練り雲丹(うに)と混ぜたり、かす漬けにしたものは酒の肴として珍味である。これら食用となるクラゲは、おもに、ビゼンクラゲ Rhopilema esculenta やエチゼンクラゲStomolophus nomurai である。日本では、塩漬けにしたエチゼンクラゲなどを中国から輸入している。

 そのほか、昔から佃煮として庶民に親しまれてきたエビのような形のアミやちりめんざこ(縮緬雑魚)も食卓にのぼるプランクトンである。ちりめんざこは、セグロイワシの稚魚やハゼ科のシロウオを煮て乾操させたものである。

 また、釣り人がまき餌に使うオキアミもプランクトンである。オキアミの仲間は外洋の表層から1000mくらいの深さまで分布しており、クジラなどの重要な餌となっていることはよく知られている。釣りのまき餌として売っているものは、捕えたクジラを解体したときに胃袋から出てきたものである。

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