ビオトープをとりまく諸問題について 神戸の自然シリーズ14 神戸の水生植物


  1. 問題点の所在
  2. 環境行政の方向性
  3. まとめ −生物多様性の視点を−
  4. 扱いに注意すべき種の表示
  5. 参考文献


■問題点の所在

 このWebサイトでは、水生植物とそれに関連したビオトープのことを大きく扱っています。ここではこれら各ページの基本的な視点を示していきます。

 最近学校等のビオトープのあり方について批判的な考え方が表明されつつあります。たとえば佐賀県教育センター研究員の上赤博文氏は、その著書「ちょっと待ってケナフ!これでいいのかビオトープ?(1)」で、学校ビオトープの扱いにもっと慎重さを持つべきであると指摘しています。少し引用してみましょう。

 『今の学校教育は、子どもたちの主体的な活動を大切にしますので、たとえビオトープにふさわしくない生物を持ち込もうとしても、まずやらせてみようと考えるのがふつうです。外来種の導入も、いくらかためらいがありながらも、実践することがあるようです。』

 『しかしいろいろなケースがあるにしても、外来種の導入にはもっと慎重になってほしいと思いますし、...(中略)...、野生生物を活用するときの、最低限度のルールだけはしっかり理解しておく必要があります。』

 氏はこの一言を述べるまでに、非常に広範な議論を展開していますが、この最後の『野生生物を活用するときの最低限度のルール』というフレーズは、学校ビオトープを有し、活用をはかることを考えている学校においては、耳を傾けるべき言葉ではないでしょうか。それは、


学校ビオトープに生息している動植物は野生である

 という認識が、学校ビオトープを考える際の基本になる視点だといえるからです。

 たとえば、トンボは外から飛んできて学校ビオトープに産卵しそこから巣立っていきます。このトンボはまさに野生の生き物です。ザリガニやカニの類は歩いて学校ビオトープに出入りすることがあります。水生植物は、学校ビオトープにやってきた鳥によって、その種子や体の一部が持ち出されたり、外部から持ち込まれたりします。つまり、学校ビオトープは、自然の生態系ネットワークにつながった開かれた存在であるということです。まさにこういうことですから、ビオトープを使って『自然体験学習』ができるのでしょう。逆説的にいえば、こういったことをねらって創出されたのが学校ビオトープだともいえます。したがって、上赤氏のいう『野生生物を活用するときの最低限度のルール』を知る必要があるということになります。

 では、このルールとはいったいどういったものでしょうか。おおざっぱにいえば、学校ビオトープにおける諸活動が、現在、自然の生態系において提起されているさまざまの問題に加担するものであってはいけないということです。

 このWebサイトは水生植物に関するものですので、水生植物を取り巻く問題について、現在提起されているものをいくつかあげてみましょう。

 角野康郎博士はその著作「侵入する水生植物(2)」において、外来水生植物が野生化している問題を取り上げています。『アマゾンチドメグサというアクアリウムに植えるために移入された種が熊本県菊池川で大繁殖して国土交通省と地元自治体が200−400万円かけて除去作業をした例』、『ホームセンターなどで売られているボタンウキクサが野外へ進出した例』などを通して、移入種が野生化することによって在来種が圧迫を受け、大きな生態系の攪乱が起きている状況を報告しています。

 さらに、ビオトープづくりに関しても、『水辺の自然復元と称してオオフサモやキショウブなどの外来種を植栽したり、ハナショウブなどの園芸植物を植えるのは論外として、在来種の植栽の現状にも考えなければならない問題が多い』として、一例として『関東地方の都市公園に新たにつくられた池のビオトープに、その地域は分布しないはずのトンボが発生した。原因は池に植栽された水草に卵あるいは幼虫がついてきたのであろうと推測され...(中略)...、業者が地元の農家に依頼して兵庫県南部のため池から採集したものであることが判明した。』という事実を引用しています(3)。そしてまとめとして『水生植物の世界では、多くの種が環境の悪化や採集によって減少を続ける一方、外来種やどこからやってきたのかわからない「在来種」が増え続けている。』として、移入生物の流通が野放しになっている状況を大きな問題として提起しています。

 また先の上赤氏は同じ著書(1)の中で、『驚くべきことに「ビオトープセット」なるものが市販され始めています。...(中略)...業者が自分たちの持っている栽培のノウハウを駆使して、希少植物を中心に教材としたものです。』として、こういった『忙しい現場の教員に魅力的な事業』によって、希少植物が自生地から減少する危険性を指摘しています。

 これらの主張をまとめると、問題点は大きく二つにまとめられます。
  1. 移入種・外来種の生態系への拡散
  2. 希少種等の採取によるさらなる減少加速

 これらはいずれも、「生物多様性」の視点から問題にされる内容です。すなわち、外来種の侵入による在来種への圧迫そして減少、他地域からの移入種による遺伝子汚染、希少種の減少および絶滅による遺伝的多様性および種の多様性の減少などです。

 さて、ここまで話を進めてくると、キーワードとして「生物多様性」という言葉が浮かび上がってきます。この内容はとてもこのWebページで語り尽くせるものではありませんので、みなさんで学習を進めていただくことを期待したいところです。参考書はたくさんありますが、一つだけ紹介しておきましょう。鷲谷いづみ・矢原徹一両氏が共著で文一総合出版から出版した「保全生態学入門 遺伝子から景観まで」(4)です.少し専門的な知識が必要ですが、そこを読み飛ばしても理解はできると思います。この本のタイトルである「保全生態学」という語は聞き慣れないものかもしれません。しかし『保全生物学は「生物多様性の保全」という明確な目標を持ち、その実現のための指針と技術の確立をめざす学問的営為である。』と書かれてあり、その核をなすものとして「保全生態学」を位置づけていることから、内容は推測できるでしょう。

■環境行政の方向性

 さて、この「生物多様性」ですが、その保護・保全に関しては国家レベル、自治体レベルで明確な指針が出されています。学校教育に携わり、子どもたちに環境学習をすすめさせていく我々教員にとって、こういったことを知っておくことは必要なことではないでしょうか。ここでは、特にビオトープをめぐる問題に焦点をしぼってお話しします。なお、以下で単に「ビオトープ」といえば、生態学的な意味でのビオトープ、つまり生物が住むひとまとまりの空間という意味で使われています。

 まず国レベルでは、平成5年に発効した「生物多様性に関する条約」を受け、平成7年に決定された生物多様性国家戦略にかかる総理大臣挨拶の中で(5)『世界的に人間活動による生物多様性の著しい減少が懸念されており、その保全は地球環境を守るために各国が協調して取り組むべき緊急課題となって』いると明言されています。そして環境庁(現環境省)は、この戦略に基づく施策の一つとして、地域生態系の保全を促進するために、自治体レベルでのモデル計画づくりを進め、山地、里地、平地(市街地)が混在した複合タイプモデルとして神戸地域を選定して、平成11年度に「生物多様性保全モデル地域計画(神戸地域)(6)を策定しています。

 兵庫県では、平成8年の環境基本計画の中で、目標の一つとして「豊かで多様な自然環境の保全」を掲げています。また「兵庫ビオトーププラン」を策定しビオトープの保全・創出のために、行政、事業者、県民が取り組むべき全県的方針を示しています。

 神戸市でもさまざまな環境保全にかかる計画が発表されていますが、ここの話題にいちばん近いものとして、平成13年3月に発表された「ビオトープネットワーク神戸21計画(7)」の中から関係ある部分を簡単に紹介しておきましょう。

 この計画は、上述の「生物多様性保全モデル地域計画(神戸地域)」で提起された『移入種による在来種・生態系への影響、開発によるビオトープの減少等が生物多様性保全上の課題』であることや、グリーンコウベ21プランにおける『水辺における生物多様性の減少傾向等』などを含むいくつかの課題を受けて、『市域に分布するビオトープの保全・創造及び相互のネットワーク化に係る基本方針を定め』たものです。その基本理念の中には『貴重種の採取、移入種の持ち込み等の多くの課題が存在し、これらに対し、適切かつ計画的に対応していく必要がある。』と、生物多様性の保全に密接に結びついた考え方が示されています。

 さらに「ビオトープにかかる主要な課題」の項においては、学校ビオトープ等の創造型ビオトープにおける課題の一つとして、『他の場所で採取した生き物の移植』をあげ、『移植先からさらに拡散する(人為的持ち出し、逃げ出しによる)地域遺伝子の攪乱が生じている。(例:ゲンジボタルの放流)』ことや『採取先において、過度の採取、不適切な採取により影響が生じている(例:水生植物の採取)』といった問題が指摘されています。そして推進のための基本方針には、『貴重種の採取や人為的な種の移入による生態系への悪影響を防ぐ』として『学校ビオトープ等の創造型ビオトープにおける不注意な生物の移入による生態系の攪乱を防ぐ。』ことが明確に示され、そのための施策として『貴重種の採取や、移入種の持ち込みにによる生態系への影響に関する環境教育を推進する。』とか『各ビオトープにおいて、市民参加による移入種の除去を行う。』ことが明示されています。

 このように神戸市では、ここで説明しようとしている問題に関して、かなり踏み込んでその方向性を提示しているといえます。

■まとめ −生物多様性の視点を−

 さて、以上の話をまとめると次のようになります。
  1. 学校ビオトープは自然の生態系の一部をなすものである。
  2. したがってそこへの移入種・外来種の導入は、その地域の生態系へ移入種・外来種を導入することと同じ意味を持つ。
  3. また貴重種(希少種)の導入を是とすることは、ビオトープ運営者自身による採取・拡散、あるいは業者等が介在した採取・栽培・流通による拡散の可能性を生じ、既に減少している自生地に対して圧力をかけたり遺伝子汚染を拡大することにつながる。
  4. 生物多様性の問題については、国家レベルから自治体レベルに至るまで共通の認識を持っており、様々の戦略・計画等が策定されている。
  5. 神戸市では、その中の環境教育の視点の一つに、貴重種や移入種の問題を正しく扱っていくべきであるとの指針が示されている。
  6. 以上から、学校ビオトープの管理、またそこで展開される自然体験学習等の環境学習においては、貴重種・移入種・外来種などを含めた生物多様性保全の視点を根底に据えた活動を展開すべきである。

 このWebサイトは、以上のような視点を基本に据えています。すなわち、水生植物を取り巻く兵庫県の現状紹介としての「ため池の水生植物」のページ、学校ビオトープにふさわしい植栽を提案する「学校ビオトープへ植栽する水生植物を考える」ページ、また「ビオトープの植物」のページでは、過去の経緯から学校ビオトープにありそうな水生植物を選び、それらについて貴重種・外来種を明示し、それらが自分の学校ビオトープにある場合の扱いについて考えるための資料となるようにしています。詳しくはそれぞれのページをご覧ください。

 1985年という神戸の自然シリーズ14「神戸の水生植物」の原著書が出版されてから17年あまりの月日が過ぎました。その当時からみて現状がいかに悪くなっているか、いやその当時でさえかなり危ない状態であったかを知っていただき、単に水生植物について知るだけでなく、水生植物を通して環境問題についての情報を提供していくことでお役に立てば幸いです。


■扱いに注意すべき種の表示

 本サイトでは、野外やビオトープでの扱いに注意をすべき種について、各ページで必要に応じて表示していますので、以下の凡例をごらんになって、参考にしてください。

取り扱いに注意するべき植物の表示

レッドデータブック掲載種一覧表



■参考文献

  1. 上赤博文,2001.ちょっと待ってケナフ!これでいいのかビオトープ?.地人書館.
  2. 角野康郎,2001.侵入する水生植物.川道美枝子・岩槻邦男・堂本暁子編 移入・外来・侵入種 生物多様性を脅かすもの.築地書館.
  3. 苅部治紀,1998.神奈川県のコバネアオイトトンボについて.神奈川虫報,(122):1-5.
  4. 鷲谷いづみ・矢原徹一,1996.保全生態学入門 遺伝子から景観まで.文一総合出版.
  5. 環境庁,生物多様性国家戦略.http://www.erc.pref.fukui.jp/info/tayo.html
  6. (財)国立公園協会,2000.平成11年度地方自治体における生物多様性保全モデル地域計画策定報告書.
  7. 神戸市,2001.ビオトープネットワーク神戸21計画.神戸市.
  8. 神戸市,1996.神戸市環境保全基本計画.