神戸の自然シリーズ3 神戸のシダ
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 2.役にたつシダ

 シダが現在の高度に成長した工業化社会の中でどれだけ役立つのか、そんな問いに対してまともに答えようと思うと、頭をかしげるばかりであるが、われわれの生活に、全然役立たないのかというと、そうではないことは、今まであちこちで述べてきたとおりであるじここでは、それらをまとめてみよう。


・薬になったシダ

 私の小学校低学年の頃、家の手伝いに来てくれていた近くのおばあさんに頼まれて、よく薬草取りをしたことがある。

 その中にまぎれもなくシダのイノモトソウがあった。神戸の市街地でさえ多いこのイノモトソウは、但馬の山国では、取るのには苦労しなかった。

 そのおばあさんは、それをどう処理し、どう使っていたのか気に留めることもなかったが、今になって調べてみると、昔から、日本・中国では利尿・解毒薬としてかなり広く使われていたようで、ハコネシダ・フユノハナワラビもその類である。

 しかし、シダが本式の薬として用いられてきたものには、「綿馬根(めんまこん)」と「石松子(せきしょうし)があるくらいである。綿馬根は、オシダの株を乾したもの、つまり葉柄の基部や鱗片のついた根茎をエーテルに浸したものである。劇薬の「綿馬エキス」でサナダムシ(条虫)やジュウニシチョウチュウ(十二指腸虫)の駆除に用いられた。いまでほ、これらの病気そのものも少なくなったり、他の薬ができたりして使われることはなくなった。

 石松子ほ、外科の薬として有名であった。これは、ヒカゲノカズラと、その近縁の種類の胞子だけを集めたもので、黄色い、サラッとした粉末である。これは約50%の油を含み吸湿性が少ないので、丸薬や坐薬の表面へまぶして、湿ったりくっついたりするをの防ぐのに用いられ、また、ただれた皮膚に薬をつけるときに混ぜて、ほう帯交換を楽にするために用いられた。

 夏の夕方、線香花火で楽しむ生活は、まだ残っているが、あの線香花火の美しい火花がパチパチはぜるのは、火薬の中に石松子が混ぜてあるからである。


・染料・香料

 ホラシノブの葉を水に浸しておくと赤い汁が出てくるようだが、ハワイでは、その汁を色染めに使ったとのことである。

 日本のある地方では、「シノブ刷り」といって、シダをたたいて出る汁で染めて模様を出すという風流なやり方が行われている。

 香の方では、シダは一般にいいにおいがするとはいえないが、葉面に腺細胞を散布し、匂いのある分泌物を出すニオイシダ・ジャコウ(麝香)シダなどという名前のついたシダがある。


・糊

 ワラビの根茎にあるでん粉は、食用のほか、傘やちょうちん・証文をはる糊として広く使われてきた。それは、ワラビ粉が、非常に粘着力の強いものだからである。


・かご・細工物

 ウラジロやコシダの葉柄で、かごやざるを作ることは、四国・九州などで行われている。

 竹博士の室井綽先生の話によると、神戸でも、昭和7、8年ごろ、今の北区の方でコシダの葉柄を使ってさかんにかご作りをしたことがあるそうだ。台湾では、タカワラビ(ヒツジシダ)という4〜5メートルの大きさになるシダがあるが、大きな根茎葉柄の基部には絹糸状の金色の毛がたくさん生えていて美しく、これを利用したおもちゃが作られている。

 これらのシダは、多く自生しているし、他の材料で作ったものより趣もあるので、今後ますます加工が盛んになっていってもいいのではないだろうか。


・ゼンマイ織

 珍らしい使い方だが、ゼンマイの新芽が出るとき、白や淡褐色の綿のような毛で覆われているが、その綿毛を集めて、織物をつくったものがある。山形県鶴岡の致道博物館にゼンマイ織のひとえものが飾られているそうだ。


・緑とうるおいを

 シノブの根茎をたばねて作るシノブ玉は、夏の涼気をさそい、夏祭りなどの縁日でほ、風鈴などとともに夏の風物誌をいろどっている。

 今では、シダでも花屋の店先に立てば、タマシダの類(ネフロレピス)、ホウライシダの類(アジアンタム)が年中緑を与えてくれている。

 木生シダのヘゴの木部からつくったへゴ板、ヘゴ材は、保水力もあり、排水も良好であるので、ランをはじめとする植物の栽培に広く用いられている。生花の材料として、コシダ・ウラジロ・ヒカゲノカズラの葉を漂白したもの、イヌガンソク・クサソテツの実葉、ときには、マンネンスギ・ヒカゲノカズラ・ミズスギが店頭に並ぶ。

 現在は、生活の中で緑の大切さが見直されてきている時である。今後、身近で、作りやすいシダがどしどし栽培されるようになるだろう。シダは、自然や日本式庭園の中で、高木・タケ類とコケ・地衣の間の空間をつなぐ植物である。水の流れや岩とぴったり調和する植物である。

 シダがなければ、われわれは生きていけないというものではない。しかし、あれば、いろいろと彩りを添え、うるおいを与えてくれる味のある植物である。

 世界的に石油危機が叫ばれ、エネルギー問題がクローズアップされて、新しいエネルギー資源を求めたり、また、いまいちど、石炭資源を見直そうとする動きのある時代になっているが、よく考えてみると、現在まで人間が文明社会を築きあげてきた源の一つは、石炭である。石炭あって成り立ってきた現在の社会ということになると石炭のもとになったのが古い時代のシダであることから、文明の親は、シダ植物だといってもよいことになりそうだ。

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