神戸の自然シリーズ19 アカシ象発掘記 神戸の自然研究グループ
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アカシ象の発掘日誌

10月7日(水)
 觜本格さんらが神戸市西区伊川谷町井吹の造成地でアカシ象を発見。夕方、教育研究所で一緒に発見した岡山大学鈴木茂之さん、復建調査設計株式会社田中元さんと話し合い、今後の発掘調査は教育研究所が行うことになった。

10月8日(木)
 觜本・小林・前田が最初の発堀。教育研究所長に大型動物化石発見を報告するとともに教育研究所として発堀したいと申し出る。毎週木曜日が定例の研究会になっている神戸の自然研究グループに昨日の発見を報告し、共同研究として、この化石の発掘をとりあげることに全員の同意を得た。週末の10日の体育の日に第1回の発掘を行う予定をたてる。京都大学理学部石田志朗さんに協力をお願いして、参加していただくことになった。

10月9日(金)
 骨を固める硬化剤のバインダーの使用法について、兵庫県埋蔵文化財調査事務所で教えてもらう。

10月10日(土)

 快晴に恵まれ、夏のような日ざしの下で、神戸の自然研究グループ7名が参加して第1回の発掘調査を行った。法面の表面発掘。

10月11日(日)
 京都大学の石田さんに地質学会の帰途、発掘現場に寄っていただいた。時間が遅く、日没後で充分な調査はできなかった。

10月12日(月)
 10日から掘り続けていたソフトボール大の骨の塊りを堀りあげた。この骨は、のちに前足のかかと(踵骨)であるとわかった。

10月13日(火)
 これまでに発掘した肋骨や踵骨をもって、土地管理者である神戸市開発局西神開発事務所を訪ね、今後の発掘調査の許可と協力を依頼する。

10月14日(水)
 アカシ象の研究者の大阪市立自然史博物館の樽野博幸さんに化石をみていただき、アカシ象であることが判明。

10月15日(木)〜30日(金)
 觜本・小林が断続的に発掘、椎骨、肋骨などをとりあげる。

10月30日(土)
 神戸市役所でアカシ象発見の記者発表を行った。頭骨が完全な形で出れば大発見であるが、発見としては中程度のものであること、心なき人による盗掘と現場荒しのおそれがあるので、発堀地の地名は伏せて、「神戸市西区の造成地」として欲しい旨要望する。各社とも諒解。
 記者発表後、予定通り鳴門教育大学の教育方法学の研究者とわれわれの自然研究グループとの研究交流に出発。テレビ放映は夕食時に食堂で、新聞報道は翌朝の徳島新聞で知った。報道内容は正確であった。

11月13日(金)
 本格的発掘は、小中学校が冬休みになる12月末にと計画していたが、寒気の下での発堀の能率の悪さと、凍結による損傷を避けるために発掘を繰り上げ、今月の22、23日の連休から始めることに変更した。
 これまでは法面からの発掘であったが、ここへきて、発掘対象域を拡げることにし、開発局に大型重機による掘削を依頼。

11月14日(土)
 大型重機の機械力でどの範囲まで掘り下げるかを現地で関係者と協議。表面から溝状堆積物に含まれる化石の上部50センチの探さまで4メートル堀り下げ、そのレベルで一辺20メートルの方形内を水平に整地することにした。

11月17日(火)
 大型パワーショベル車とブルドーザーによる掘削作業を実施。予定した20×20メートル四方の発掘地の周辺に幅1.5メートル、探さ2メートルの溝を堀った。これで化石包含層の詳細な観察が可能になった。

11月18日(水
 22日からの本格的な発掘作業にそなえて、ジョレン、トウグワ、小型ハンマー、ドライバー、ツルハシ、スコップ等を大量に購入。

11月22日(日)快晴
 京都大学と神戸市立教育研究所(神戸の自然研究グループ)との初めての合同発掘調査。参加者18名、京大9名、神戸5名、その他4名、奈良教育大西田史朗さん、明石海峡底のアカシ象を収集している井上繁広さんらも参加。
 今日は機械掘り面から化石の探さまで慎重に手堀りで堀り下げた。

11月23日(月)曇
 前足の橈骨、指骨、首の骨(環椎)、肋骨ほか多数の骨片を堀りあげた。
 本日の参加者24名、神戸10名、京大5名、ほか9名、大阪市立大学の南木さん、岡山大学の稲田さんらが参加。

11月25日(水)
 今日はウイークデーだが、発掘作業を行った。肋骨3本を堀りあげた。本日の参加者7名、神戸2名、京大4名、ほか一名。

12月2日(水)
 曇り時々晴れ。非常に寒かった。
 象化石は、重なったり、くっついた状態で産出し、点数は多いが、分離作業は困難。鹿の角発見。
 本日の発掘参加者 神戸3名、京大6名、ほか1名。

12月10日(水)曇り時々晴れ
 現在の発堀地点より、どれぐらい離れた範囲に化石があるかを確認するため、北へ3メートルの地点を試堀したところ、骨片が数片見つかったので、発掘範囲を拡大することにした。
 夜、5時半から8時まで教育研究所の理科室で京大の三枝さんを講師に骨の勉強をした。人骨標本に黙とうをささげたのち人体と象とを比較しながら厳粛ながら楽しく講義をうけた。
 本日の発掘参加者 神戸3名、京大4名、ほか3名。

12月13日(日)
 発掘方法について石田さんと打ち合せ。現在の簡易測量下の発堀では科学的な資料を得難い。本格的な精密測量を行い、化石の産状を克明に記録すべきであるとの勧告をうける。

12月16日(水)
 開発局牧野さん、清水さんによる水準測量実施。森林植物園の高橋さんらに、テントの支柱の打ち込み作業をしてもらうが下部の青粘土が固く作業は難航する。午後3時完了。
 本日の参加者 神戸8名

12月19日(土)
 明日の発掘にそなえて、北側部分の掘り下げ作業を東海アナース作業員10名により行う。地層の断面に微細なラミナ構造があらわれる。
 午後、牙の組織を示す骨片を見つけたが、発堀は明日に回す。
 本日の発掘参加者 神戸2名、京大1名、東海アナース10名。

12月20日(日)
 昨日の牙が殆ど損傷を受けず全容を現わした。完全な状態で取りあげられそうである。上あごの臼歯発見。脂肪酸分析試料を採取し、帯広畜産大へ依頼。
 本日の発掘参加者 神戸8名、京大5名、姫路南校生6名、ほか5名。

12月23日(水)
 アカシ象発堀協議会を開いた。
 協議内容の大要
 アカシ象化石の発掘は神戸市立教育研究所が京都大学理学部地質学鉱物学教室の協力のもとに行う。
 アカシ象化石の古生物学的研究は京都大学が行い、その成果は京都大学と神戸市立教育研究所が共同研究の形で発表する。
 アカシ象化石の保存管理に関しては研究終了時に協議する。
出席者
 京都大学理学部助教授 石田志朗
 神戸市教育委員会 指導部長、庶務課長、文化財課長
 神戸市立教育研究所 所長、副所長、ほか4名。

12月24日(木)
 市役所記者室で、これまでの発堀経過と、明日の現地取材について説明した。各社の質問は象牙に集中した。
 発掘現場は東海アナース作業員7名による掘削作業、主として北への化石包含の確認調査の掘り下げを行った。

12月25日(金)晴、暖かい
 左の牙も出てきた。さらに臼歯2個と鹿の下がく骨発見。収獲の多い日であった。
 冬休みに入った第1日でもあり、前日の記者発表に続いて、各新聞社、テレビ6社が取材に訪れ、発掘現場は終日にぎわった。
 本日の発掘参加者 神戸13名、京大7名、ほか14名。

12月26日(土)晴、暖かい
 期待した牙のとり出しはできなかった。牙の周辺の骨片の取りはずしに思わぬ時間がかかったため。中学校理科研修講座に参加の先生方15名、黙々と掘っていただいた。発見者の岡山大学鈴木茂之さん、復建の田中元さんも発掘のため来訪。夜、元町でコンパ、20名参加。
 本日の発掘参加者、神戸7名、京大9名、ほか9名。

12月27日(日)晴、午後より風が出たが暖かい一日であった。
 遂に牙を掘り出した。午後5時30分、日はすでになく、暗がりの中で自動車のヘッドライトを頼りに牙を封入した箱を運んだ。
 本日の発掘参加者 神戸10名、京大8名、ほか12名。毎日テレビ、サンテレビ今日まで三日間取材。

12月28日(月)晴、暖かし
 前日とりあげた牙を教育研究所の理科研修室に搬入。
 待望久しかった頭骨の一部が破損状態で産出した。手の平大であるが、頭骨の特徴である蜂の巣構造がよく残っている。頭骨全体は堆積の過程でこわれてしまったのである。下あごの骨も発見された。今日は残る牙と周辺の骨との分離作業を集中的に進めた。
 本日の発掘参加者 神戸5名、京大6名、ほか2名。

12月29日(火)晴、暖かい一日。
 三つめの臼歯発見、黒光りのする3枚の厚い咬板が印象的である。下あごの骨(下顎骨)が二つに割れているのがわかった。依然として骨どうしの癒着が固く、作業は遅々として進まず。
 本日の発掘参加者 神戸11名、京大4名

12月30日(水)曇のち晴、風強し。
 今年最後の発掘となったが、その棹尾をかざるのにふさわしい発見があった。それは舌骨の発見で、アカシ象では初めてであるが、他の象でも滅多に見つかっていない貴重な化石だそうである。
 天気は朝少し雨が残ったが十時頃から晴れ間が見えはじめたものの、前線通過による猛烈な風となった。午後2時30分作業打ち切り、発掘用具、化石は東落合中学校に正月中預ってもらうことにした。正月は4日10時半より発掘を再開することにした。
 本日の発掘参加者 神戸8名、京大7名

12月31日(木)
 午後、埼玉へ帰省する直前の三枝さんより発堀方法について電話があった。化石骨相互の結びつきが強く、これ以上現地での取りはずしは難しいので、全体をブロック状に切り取り室内で時間をかけて作業をしては、との提案であった。
 この連絡をうけて森林植物園の高橋敬三さんにエンジン付き杭穴あけ機の応援を依頼する。

1月2日(土)
 觜本さんが発掘現場に行く。異状なし。開発局のガードマンが時折りやってくる子供達を整理してくれていた。

1月4日(月)雨
 発掘現場は年末の状態を保ち、異状は認められなかった。雨強く、発掘作業は中止し、今後の発堀作業日程を5〜6日は手堀り作業、6〜7日はパワーショベルによる掘削、8日に搬出、9日は搬出予備日とする。
 開発局西神開発事務所にパワーショベル導入の依頼をする。
 午後は教育研究所の牙を箱からとり出す作業をする。ウレタンをはぎとり、化石の周りの粘土をはずし、牙に達した探さでストップ。
 神戸3名、京大3名。

1月5日(火)曇り 風強く寒気きびしい。
 年末から本日まで象化石をおおっていたシートや土盛りをとり、12月30日の状態に戻す。化石は異状なし。
 象化石包含層の基底面の測量を実施。上腕骨、大腿骨、シカの骨片をとりあげた。
 本日の発堀参加者、神戸5名、京大3名。


1月6日(水)晴
 化石集合部を島状に高くする掘り下げを手作業で行った。これを入れる箱枠の大きさ長さ2.3メートル、幅1.2メートル、深さ0.7メートルを森林植物園に依頼。
 本日の参加者 神戸4名、京大3名

1月7日(木)曇り、午後2時より雨
 パワーショベルで、化石を含むブロックを島状に残して、深さ約1メートル堀り下げた。この作業そのものは午後11時には、ほぼ完了した。午後2時、森林植物園特製の箱枠が到着した。四隅を6センチ角の角材を内外に使い、ていねいにかんなをかけた杉板(厚さ15ミリ)の外廻りを太い角材で締め重量2トンのブロックをクレーンで吊しあげてもびくともしない頑丈さである。エンジン付杭穴開け器も同時に到着。直ちにテストをしたが、エンジンは快調だが粘土が固く、すべって穴開けはできない。機械力を断念し、人力に切替える。
 午後2時半頃より一せいに化石ブロックの下部のトンネル掘削にかかる。手許が暗くなりペンシル型懐中電灯を使って、午後5時30分までに3本のトンネル完成したが、平均して約1メートルの穴が2〜3時間で貫通できることことがわかった。
 舞子ビラで、7時30分〜9時まで三枝さんからアカシ象の講義をうける。
 本日の発掘参加者 神戸5名、京大4名。

1月8日(金)雨はあがり快晴、しかし風強く、寒気がきぴしい
 午前8時半から午後3時まで、化石集合ブロックを切り離すためのトンネル掘削と発泡ウレタン注入作業。
 午後3時〜4時、象牙ブロックを箱枠で囲み、ウレタンを注入して箱枠内に固定する。発泡ウレタンA液、B液それぞれ40キログラム、計80キログラムを使った。午後4時〜5時、パワーショベルで箱枠を半回転させて、地層から完全に離した後、ロープをかけて吊しあげ、法面下の平坦地におろす。午後5時、森林植物園のトラックに積み、研究所へ出発。山麓バイパスを経由して5時40分研究所着。
 待機中の20トンクレーン車で6階ベランダへ吊しあげ安置する。クレーン車のコンピュータがはじいた重量は1.5トン。
 本日の参加者 京大5名、運搬関係10名。

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