理科の教材として「断層」は、どのように教えられてきたのであろうか。
さいわい、当研究所の資料室には、神戸市立多井畑小学校より寄贈をうけた明治・大正・昭和の三代にわたる貴重な教科書・教師用指導書が保管されている。
これによれば、驚くべきことに「断層」は明治20年代の小学校理科にとり扱われている。ここには、その全文を転載したが、断層は地層の変形した現象として記述されている。
もっともこの教科書は、高等小学校用であり、当時は小学校4年までが義務教育の期間であったから、国民の大多数が「断層」を学習したとはいえない。
明治40年代の国定教科書の「断層」の内容は、その後大筋において変化なく、昭和まで扱われてくるが、その挿図もまた版をかえることなく継続して使用しているのは、いかにも国定教科書らしい。しかし、昭和13年度版には「断層に変動の生ずるときにほ地震が起きる。」と記述している。この新内容は、さきに紹介した杉村論文にある地震学の進歩と関連づけてみると、その先どり的姿勢がうかがえて興味深い。
ところが、昭和16年度版にほ教科書の内容が大幅に改訂された、いわば戦時型となる。この教科書では、断層などのいわゆる地質的教材は削除されている。この時代における精選集約版ともいえよう。そして教科書の体裁は明治以来続いてきた縦書きから横書きへと改められている。
一転して、戦後、文部省自らが編集した理科教科書「小学生の科学」では「断層」は地球にはどんな変化があるかという大単元の中に「山はどのようにしてできたか」の小単元にとり扱われている。
ここでは、新時代の幕明けにふさわしく、これまでの講義調記述を脱し、先生と生徒が野外で授業を行なうことを想定して、対話形式で記述されている。印刷も、わが国の小学硬理科教科書としては、はじめて四色の色刷りオフセット印刷である。
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