神戸の自然シリーズ6 神戸の野鳥観察記
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■1.卵や雛を守る親鳥
マツの枝をちぎったハシボソガラス 旋回して警戒するハシボソガラス


5.枝を投げつけるハシボソガラス

 カラスは全身黒装束で不吉な鳥といわれたりするが、近くで見ると青や藍、紫の金属光沢を放っていてなかなか美しい。髪はカラスの濡れ羽色などとたとえがあるぐらいである。

 神戸には、もう一種のハシブトガラスもふつうに見られる。嘴太と書けば解るように、嘴がもり上ったように太くなっている。少し大型で翼幅もあり、尾も長い。

 「アォーアォー」と太く澄んだ声がハシブトで、「ガァーツ、ガァーツ」と濁っているがやさしみの鳴き声がハシボソである。しかし、どちらもいろんな声をその時に応じて出すからよく聞かないと間違えやすい。よく聞くとカラスの声ほど表情豊かな鳴き声は他の鳥にない。

 数年前までハシボソが多かったが、この頃はハシブトがふえつつある。

 1975年(昭50年)5月、東須磨にある勝福寺の裏山での出来事である。須磨女子高等学校の西側の谷にあるトビの巣を調べながら谷を下りさって、人家の近くまできたとき、80mほど先にある高圧電柱で休んでいる2羽のハシボソカラスを見つけた。2羽の挙動から、いずれかの繁殖過程にあるのが、ひと目みてわかった。

 巣は電柱と反対の方向の、今立っている所から30mばかり隔った急傾斜の林の中にあるアカマツの6メートルほどの高さの枝の上にあった。その巣には、巣立ちを数日後にひかえた4羽の雛がいた。私たちは道を巣の方へ歩きはじめたが、親鳥は私たちの行動に無関心をよそおっているように見えた。巣の10mほど手前で立ちどまって、巣を見上げた。このとき、親鳥の行動にはっきり動揺の気配が読みとれた。この道は、一日に何人かの人が通るのであるが、ただの通行人には何の心配もしない親鳥も、巣を意識的に見る人からは、敵意を感じとっている様子がはっきりわかる。

 はるかかなたの電柱でのんきそうに休んでいても、巣の近くに起る事柄や人の動きには一分のすきもなく、しつかり見張りを続けているのである。

 カラスは人の行動や感情を読みとることに特に敏感な鳥であるといわれる。危害を加える心配のない農作業中の人には数mの距離まで先方から平気で近づいてきたりするが、危険なハンターなどに対しては警戒深く、いろいろ工夫をこらしても射程距離まで近づくことは難かしい。

 道をはずれ巣に向って斜面の林へ一歩ふみ込んだ。親鳥はあわてて飛来し、警戒の叫びをあげながら頭上を旋回しはじめた。

 写真をとるために、巣を見下ろせる斜面に登りブラインドの設営をはじめた。巣との直線距離は10m余りである。巣の近くで作業をはじめた私たちに対する親鳥の怒りは最高に達し、旋回の合間にも頭上の松の枝にとまって叫び続けた。

 その頃からブラインドの近くに、バサッ、バサッと小枝が落ちて来るのに気づいた。はじめのうちは、それがカラスの体重で折れた枯枝であろうと思って気にもとめなかったが、あまりたびたびなので不審に思い、落ちてくるのを待って拾って見ると、今折れたばかりのマツの新芽である。少し切味の悪いハサミで切ったような切口で切り取られている。ここで作業の手を一時止めて、親鳥の動作を観察することにした。私の視線を感じた親鳥はさらに怒り、私たちをにらみつけながら一段と強い声で叫びをあげた。そして、興奮は半ばやけになったような動作になり枝をもぎとる。私たちの手でもマツの新芽はねばくて簡単に折れない。鉛筆より太いその新芽をねじ切るような要領で、頭をふり全身のカをこめて二度三度引っばればちぎれている。見事なハシさばきであり強さである。そして、それを首をふるようにして、プイッと投げ落してくる。それが、私のいるところから2-3mの範囲に降って来る。ブラインドの設営には約15分かかったが、その間に投げてきた枝は、ざっと数えてみて20本以上もあった。

 この枝投げの威嚇を中心になってしているのは、2羽のうちの片方で、他の1羽は飛びながらさわぐことが多い。しかし、ときには近くの枝に止って枝落しの行動に加わる。

 私は今までに多くのカラスの巣を見てきたが、このような威嚇をうけたのははじめての経験である。しかも一応2羽とも同じことができるのである。この動作はこの親に限るものなのだろうか、それともどこのカラスでも近くに適当な材料があれば行なうのか、その辺のところはまだ十分に調べる機会がない。また、この巣では2羽とも同じ威嚇の方法を知っていたのはおもしろい。雄雌どちらが中心になっていたか、堆雌の区別の難かしい鳥のことであるからはっきりしない。

 さて、ブラインドに身をかくすと、さきの怒りの行動は4-5分でおさまり、真上の枝まできて20分ほど様子をうかがっていたが、やがてもとの電柱に引きあげた。しかし、一隣でもブラインドから顔を出すと直ちに戻ってきて叫びをあげる。その早い対応ぶりには隙もないし、すばらしい視力である。ブラインドから出れば枝投げをはじめる。その変った動作を十分観察した後、ブラインドを残して立ち去った。ブラインドを残すのは鳥に馴らせるためにしばしば用いる私たちの手段である。

 私たちの離れたのを知った親鳥が、正常な育雛活動を再開するのを100mほど離れた民家の陰から確認し帰宅した。ブラインドを警戒し、育雛ができなくなるようなことがあってはならないから、ブラインドを張ったときは最低これだけはやっておかなければならない責任として、確認する習慣にしている。

 3日後、写真撮影のためにふたたびブラインドに入った。ブラインドに入るまでの間、枝投げは前回と同じであった。雛の羽毛は一段とのびてたくましくなっていた。そして2時間ほどで親鳥は正常な育雛を開始した。数枚の写真を撮った後、心配をかけた親鳥にわびる気持ちでブラインドを撤収した。

 この親鳥について、さらに感心したことは、はじめの日、帰路につく私たちの上空を2羽の親鳥が旋回しながら200mほど見送って来たことである。擬人的な見方になるが危険な奴が確かに去ったことを確認しているようであった。従って、育雛再開の確認は、いったん町の人ごみまで出て、カラスの目をごまかしそれから折返す方法をとった。

 野鳥観察の人たちの間でよくいわれることだが、ブラインドにはじめは2人いっしょに入り、しばらくたって1人がわざと目立つように出ていけば、数のわからない鳥は人がいなくなったものと思いこみ、警戒を解くという。

 しかし、サシバやカラス、トビでは何度もこの実験をくりかえしてみたが、ブラインドに人が入るのを見て知っているはずでも、しばらくたてば警戒を解くし、2人入って1人出ても、2人とも出ても、その時間はほとんど変らず、一定時間は警戒を続けるものである。この方法の効果は疑わしく、気休め程度だと考えている。しかし、現在でもこのような方法をとる人は意外に多い。


ハシボソガラス スズメ目 カラス科
  雄雌同色、全身黒色であるが、美しい金属光沢を持つ。頭上から現にかけては紫緑 色。背、肩は紫色、腰、上尾筒は赤紫色である。尾は緑〜藍にそれぞれ輝く、胸〜腹は光沢が少ない。虹彩は暗褐色である。

 嘴峰 45-63mm、翼の長さ300-380mm、尾の長さ170-220mm、[足付]蹠51-68mm、開長平均960mm、全長平均485mm、体重平均590g、平均的に雄の方が大きい。
 日本全土に広く分布する。国外ではシベリアから中国大陸とその周辺に分布し、ヨーロッパには日本と別の亜種が生息する。

英語名 Carrion Crow
   学 名 Corvus corne Linnaeus

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