神戸の自然シリーズ6 神戸の野鳥観察記
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■1.卵や雛を守る親鳥

鳥体計測法

 いくつかの例外はあるが、日本の野山では春から夏にかけて、野生の鳥たちは繁殖の季節を迎える。この時期は、ある種類は美しい声でさえずり、またあるものは美しい羽毛に衣装をかえ、生命の喜びに満ちあふれたすばらしい季節である。

 だが一方、自然の中では弱い地位にある鳥たちの雛や卵は、より強い動物にとっては手頃な食物であり、常に狙われている運命にある。だからこの季節の親鳥は自分自身の生命を守るだけでなく、その上に自己防衛の手段をもたない雛や卵を守る任務を背負わされることになり、親鳥にとって神経の休まる暇もない、重労働が課せられる。雛を育て終えた後の親の羽毛が見るも無残なほどポロポロにすり切れているのを見ても、いかにきびしい労働であったかが想像できる。自然は親鳥のわずかなミスにも容赦なく淘汰のふるいをかけ子孫を残すことを許さないのである。

 親鳥が卵や雛を守るための命をかけた行動は、昔から美談として物語りの題材にもなってきた。それが本能による反射的な行動であるにしても、それは人びとの心をうつ多くのものを持っていたのである。

 もし、野外でそのような場面に出会ったら素直にその行動に感動し、親鳥をそれ以上苦しめないように、素早くその場を立去るやさしい心構えを持ちたいものである。また、自然のルールを破るような自分勝手な判断に基づく干渉はたとえそれが鳥のために行うつもりであっても、極力さけるべきであろう。

 動物行動学の進歩は野鳥の行動についても、くわしく分析し究明しようとしており、解き明かされている部分も多くなったが、専門的な内容にわたるのでここでは考えないことにしたい。

 野鳥が卵や雛を天敵によって失う率は、私たちが考えているよりもずっと多い。神戸の身近な山野での調査では、ホオジロやウグイスのような小鳥は、季節によっては、その九割近い巣が被害を受けて卵や雛を失い、トビやカラスのように、神戸では該当する天敵がほとんどないように思える種類でさえ、3割〜4割の巣で卵や雛を失うという結果である。

 人家に巣くうツバメやスズメの雛はそれにくらべると巣立ち成功率がきわめて高いわけであるが、それらだけがやたらに増えないのは、その後の死亡率が高いことを意味している。たとえ運よく巣立ちに成功した雛にも同様の危険が、常に待ちかまえていると見なければならない。親鳥の厳重な保護下にあってさえ、自然はこれほどきびしいのである。

 大型猛禽類は自然の中では強い地位を占めているから、襲って来る敵もごく限られたものしかいない。しかし、大部分の小鳥では、巣に近づく外敵に積極的に命をかけた攻撃を敢行しても通じる相手は少ない。しかし、その小鳥が、今なお種を保ちつづけているのは、親鳥のそのような行動が、少なくともいくらかの意味をもち、効果を上げてきたことも一つの理由にはなるはずである。

 巣の材料や形、作る場所、巣の近くでの親鳥のふるまいなど、そのどれをとってみても、容易に敵にその存在を気づかせない細心の注意が払われていることに感心させられる。

 この章では、できるだけ誰でも知っているような鳥の中から、興味ある行動をしめした数種類をえらび、私が神戸で経験したことをもとに書いてみた。

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