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■7.キジバト −町に進出した野の鳥
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2、繁殖の習性 −育雛の記録・東垂水町にて−
前にも書いたとおり、都会地のキジバトの繁殖期は決まっていない。真冬にも卵を見る。しかもその卵は十分発育し、孵った雛は無事に巣立っていく。といっても繁殖の最盛期はやはり存在する。真冬にはそれが少ない。2月頃から多くなりはじめ、3月頃に産卵する例が多い。その後、5月頃までは多く、6月に入ると低調になる。再び8月中下旬から増え、9月が1年中で最高の値を示す。10〜11月はじめ頃までは多いが、11月下旬になるとその数は少なくなる。
かつて、西隣りの家の松の木に2年続けて巣をかけたキジバトがあった。その巣は自宅の窓から手にとるように見える好都合な場所にあり、この鳥のようすを連日観察することができたので、この鳥の繁殖習性の一端を見ていくことにしよう。
1975年8月下旬
近くにいるキジバトの鳴き声が目立ちはじめた。TVアンテナや電柱の頂で長時間鳴くことが多くなった。
この鳴声は一般に「デデッポーポー」と聞きならされている。ハト特有の声だが「クックーポーポー」といった方が適当のように思う。喉をふくらませ、懸命に鳴き続ける。1つがいいるが、もう一方の鳥は近くにいるだけで、特に変ったようすを見せない。
繁殖期のキジバトは、タカのような飛翔をすることがある。はげしく羽ばたいて舞い上り、その位置から翼を水平に広げて、大きく輪を描きながら滑空する。それを何回かくり返し、やがて枝にもどるが、ちょっと見たところ中型のタカかハヤブサのように見える。これはテリトリーを誇示する動作とみられている。
このあたりはキジバトが多いので、テリトリーの範囲も狭い。滑空の距離もせいぜい50mほどで、すぐ近くのTVアンテナに戻るのが常であった。
小鳥はタカに対して先天的に恐怖心を持ち、タカを見つけると警戒の声を上げたり、姿をかくすものであるが、キジバトのタカ型飛翔は、スズメにもヒヨドリにもまったく通じない。
9月3日
巣作りの動作を示しはじめた。夕方の4時頃、松の高さ2.5mほどの北側に出た横枝の主幹に近い場所に1羽のキジバトが何度も出入りし、同じ場所に坐ったり、立ったり、足で土を掘るようなしぐさで枝をひっかいたり、胸部を押しつけたりしている。
巣を作る場所がやっと決まって、その部分の小技を整えているらしい。巣材はまだ何も入れていない。
松の木は西隣りの家の庭の東の塀近くにあり、西側が開けているが、三方は住宅に囲まれている。そして、その家の洗面所の窓から1.2mほどしか離れていないし、私の家の窓からでも2mほどである。うす暗くなりかける頃まで同じことをくり返していたが、その後は姿を消した。
9月4日(巣作り1日目)
朝七時、すでに咋日と同じ場所に坐っていた。その後、観察できなかったが、隣の人の話によると、14時頃まで10〜30分間隔で巣材を運びこんでいたそうである。
巣の上に坐るのは咋日と同じ鳥で、この鳥はその間一度も巣を離れず、他の1羽が枯枝をくわえて運び、一声鳴きかわして巣の上で口からロヘ引き渡しては飛び去っていたという。
雄雌の色、姿がまったく同じ鳥だから、その性別はわからないが、巣に坐る方が雌で、巣材を運ぶ方が雄であろうと思われる。
巣材を受取った後は次の巣材がくるまでほとんど休みなく、巣材をあちらへまわし、こちらへまわし、すでに置かれている巣材の間へ強くさし込んだり、胸で押しっけたり、足でひっかいたりして忙しく働きつづけていたそうである。
14時頃になって巣を離れ、その後はまったく巣によりつかず、15時頃、約50mほど離れた路上に2羽いっしょにいるのが見られた。
夜はどこをねぐらにしているのか近くにいない。
巣材はうすく一重に敷きつめた状態であり、親鳥が坐れば、尾がほとんどはみ出すほどの広さである。
9月5日(巣作り2日目)
朝から14時頃まで営巣を続け、その後は近くのTVアンテナを巡りながらよく鳴いた。
営巣のようすは咋日聞いた通りで、特に変った動作はなかった。
巣作りを止めてからは、附近には1羽だけしか見られないようになり、タカ型の飛翔を5〜6回やった。
9月7日(巣作り4日目)
夜明け前から終日観察した。
明るくなって30分ほどたった頃、1羽が巣に入り、他の1羽が巣材を運びはじめた。巣の上に坐る鳥も、ときどきクックーポーポーを小さめの声でやっている。他の1羽が近くに見えたときによく鳴く。巣材は15〜30分の間隔で運ばれてくるが、材料は枯枝ばかりである。鉛筆ほどの太さで20cmほどある枝を持って帰ったときは、さすが飛びづらそうであった。巣のほとんど真上6mほどの所にあるTVアンテナへ一たん止まり、そこから落ちるようなかっこうで巣に入ることが多かったが、直接松の枝にくることもあった。昼前になって巣のすぐ横に洗たく物が干されてからは、その白い干物の上に止まるようになった。持ち帰った巣材を引きつぐと、巣に長くとどまることはなく、5〜6歩枝の上を歩きそこから西へ飛び立つ。そのコースはいつも決っており、縁側をすれすれに飛び去る。縁側に人がいてもそれには頓着しない。時には人との距離は1m以内の所を通過している。3〜4回に一度ほどの割でTVアンテナへ舞い上り、そこで5〜6声鳴いて去った。巣に坐っている鳥は、受取った巣材を嘴で、すでに積み上げた巣の土台の中へ押し込み、足でひっかいたり、何度も位置を変えたり、胸で押しつけたりしている。この動作は、次の巣材がくるまで休むことなくつづけられた。10時頃に営巣を中止して巣を離れ、その後は帰らない。夜明け後30分ほどで朝食を終え、その後、4時間ほど巣作りに没頭したことになる。行動半径はかなり広く、一気に100m以上飛び去ることもあった。これだけ飛べば、どの方向にも他のキジバトのテリトリーがあるはずだが、たがいにそれほど強い意識はないようである。それでもタカ型の飛翔は他のキジバトの領域では遠慮しているらしく、巣を中心とした50〜80mの範囲でやっている。巣材は、巣から15mほど西にあるメタセコイアの枯枝をむしり取ってくる事が多かった。巣材の適当なものを見つけると何度もくり返して同じ場所に現れ、その枯枝を集中的に運ぶようである。
9月8日(巣作り5日目)
7時にはすでに巣に入っていた。巣材の運搬はなく、この鳥は14時頃まで巣にとどまっていた。抱卵するように巣にしゃがみ込むこともあったが、まだよく動くし、巣材を動かして、巣の安定、坐り心地を確かめている。16時半、再び帰巣し、そのまま巣上に立ったままの姿勢で眠る。夕方に強い雷雨あり。
巣は咋日で完成したものと思ってよいらしい。営巣にかかった日数は、4日間である。キジバトの巣は皿状に枯技をうすく積んだだけの粗雑なものである。小鳥の巣のように椀形にもせず、産座に特に細かい材料を敷くこともしない。ときには下から空が透けて見えるほどのうすいものもある。
9月9日(産卵開始)
何度か短時間巣を離れただけで、終日、ほとんど巣の上で過した。抱卵のような姿勢もとるが、まだ姿勢が高く中腰気味である。夕方、1卵のあるのが見えた。産卵時刻は正確にわからないが、午後であることは確実である。夜も中腰のような姿勢で巣上に肥る。私の家の電灯をつけると、窓からもれる光で、巣の上の鳥のようすが手にとるように見える。できるだけ光が当らないように雨戸を引いてやることにした。
9月10日(産卵完了 抱卵開始)
夕方から姿勢が低くなった。完全な抱卵の姿勢である。目を閉じていることも多い。2卵目はまだ見ていないが、産卵したことはまちがいない。ハト類は2卵を産むのがふつうだからである。
9月11日(抱卵2日目)
落着いた感じである。目を閉じていることが多い。午後は西日の暑さに口を開けてあえいでいた。1羽が巣についているとき、他の1羽はまったく姿を見せない。
9月21日(抱卵11日日)
7時と15時に抱卵の交代を見た。5mほど離れたTVアンテナに相手の姿を認めると、巣の鳥は2〜3歩あるいて飛び去る。TVアンテナの鳥はそれを見てすぐ巣に入るが、卵を抱く前に一声鳴く。交代して出た鳥はそのまま次の交代まで姿を見せない。
朝は5時頃に明るくなるから、腹ごしらえがすんだ頃に1回日の交代ということになる。たぶん、夜に巣に坐っている鳥が雌と見られるから、7〜15時の日中は雄の抱卵となり、15時から翌朝7時までが雌の抱卵になる。おそらくこの推定は間違いないと思うが、確実とはいえない。以後、この考え方で観察をすすめていくことにする。
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