峨のなかま(1)

 はねをバタバタさせるとほこりっぽい鱗粉(りんぷん)をまきちらし、嫌われもののイメージ(image)がありますが、なかには蝶(チョウ)よりもきれいな峨(ガ)もいることは観察を続けるなかで気づくことでしょう。

 ガもチョウも分類の上では同じ鱗翅目(りんしもく)のなかまです。あえて違いを言うならば、ガは一般に走光性が強く夜行性で、休むときははねを重ねて屋根型にしたり、開いて広げるものが多く、チョウのように重ね合わせて垂直に立てることは少ない。また、触角は羽毛状、櫛歯状(くしはじょう)、糸状などいろいろあって、糸状の先がふくらんで棍棒状(こんぼうじょう)をしたチョウとは違いがあります。
 
 さて、世界の昆虫類は高等植物より3倍以上の75万種類もいて、そのうちガのなかまが20万種とも言われ、チョウの2万と比べ10倍以上の多さです。また、日本で確かめられているチョウは200種ほど、ガはその50倍の1万種となっています。

 昆虫の研究ならガのなかまはまだまだ魅力が残されています。皆さんもチャレンジ(Challenge)してみませんか。




写真73、ビロウドハマキ
6月、生田川公園
写真74、トサカフトメイガ
8月、落合中央公園


■ビロウドハマキ
 サクラの葉で休んでいるのはハマキガの一種のビロウドハマキです(写真73)。上の大きいのが雌で、はねを広げると5cmぐらい。下のは雄で4cmほど。

 幼虫は緑色がかったうすい黄色で、冬を越すときはアラカシなどの常緑広葉樹の葉を糸で寄せ集めます。成虫は6月と9月に発生し、近畿地方に多いそうです。

 もともとこのガは夜行性で、山林で暮らすものが多いといわれていますので、このガが住む公園は落葉・常緑どちらの樹木にも恵まれていることになりそうです。


■トサカフトメイガ
 よく日の当たる林のふちに生えるヌルデ(ウルシ科の低木)の葉で、タナグモのようにうっすらと糸を張り、葉を食べています(写真74)。体の色、模様がはっきりしていて印象に残りやすいメイガです。成虫はこげ茶色のはねで、広げると4cmそこそこで、メイガのなかまでは大きいほうです。


 

写真75、シロオビノメイガ
9月、神仙寺通2
写真76、オオミノガ
8月、自宅


■シロオビノメイガ
 いまは家が建っていますが、それ以前に空き地だったとき、ヒナタイノコズチの花で吸蜜していました(写真75)。名のとおり、広げたはねに白いすじが帯状に横切っています。平地によく見られるメイガで幼虫はホウレンソウなどの野菜の害虫です。

 はねは全開しても2cmほどの小さなガです。


■オオミノガ
 入口の植木のラカンマキに葉の数ほどたくさんのミノムシがあっという間にぶらさがりました(写真76)。1992年のことです。この、どこにでもいたミノガが最近は見かけなくなり、問題となています。多分寄生バチにやられて激減したのではないかといわれます。

 私の家でも、あれだけたくさんいたミノムシが、その後1匹も見られなくなりました。

幼虫は葉をつづって、みのの中にひそみ、ほとんどあらゆる樹木の葉を食べ荒らします。雄は年一回ガになって飛び出しますが、雌は一生みのの中で暮らします。


 

写真77、ウスバツバメ(幼虫)
5月、篠原本町5
写真78、ウスバツバメ(成虫)
9月、篠原本町5


■ウスバツバメ(幼虫)
 薄い黄緑の体に3本の黒いすじが平行し、まばらに刺毛(しもう)が生えています。これは川ぶちに植えられたソメイヨシノの葉にいたもので、幼虫はサクラなどバラ科の樹木の葉を好むようです(写真77)。ごく若い幼虫は、葉の裏の薄い部分を食べますが、大きくなると穴をあけたように葉全体を食べるようになります。

食べ跡は昆虫の種類で違ってきますので、観察の対象として大切な項目です。


■ウスバツバメ(成虫)
 まるで、スジグロシロチョウのようななりをしているのは、マダラガ科のなかまのウスバツバメです。

 9月の終わりごろ、5月に見たサクラ並木の1本に、母虫が卵を産みつけているところに出くわしました(写真78)。このマダラガは年一回秋に発生します。サクラの多い神戸の街ではよく発生しますので、ふわふわと天女が舞うように飛んでいるところは、みなさんもきっと見たことがあるでしょう。

 「いえ、まだ・・・・」という人は秋の楽しみのひとつに加えてください。



写真79、ホタルガ
9月、箕岡通4
写真80、タケノホソクロバ(幼虫)
10月、離宮前町2


■ホタルガ

 生垣にマサキの植わった民家のそばを歩いていますと、「パッ」と飛び立ち、近くの石垣に止まったところを「パチリ」(写真79)。

 黒い装束(しょうぞく)に白帯のはね、小さな頭を赤く染め、ホタルが火をともしたようなアクセント(accent)をつけています。

 夏から秋にかけ、さきのウスバツバメ同様、街でも時々見かけるマダラガ科のガです。

 幼虫は黄色っぽい背に黒いふちどりがあって、マサキやヒサカキなどを食べ、年2回発生します。


■タケノホソクロバ(幼虫)
 これもマダラガ科に属するタケノホソクロバの幼虫です。住宅の軒下に植えられた竹の葉を食い荒らしていました(写真80)。葉のすじ(平行脈)を鋭角に切り刻んだような独特の食べ跡を残しています。これは十分成長した幼虫です。

 成虫ははねをいっぱいに広げても2cmほどの黒っぽい小さなガです。

 幼虫の刺毛は人の皮膚に発疹(はっしん)を起こすことがありますので、直接手で触れないようにして観察しましょう。



写真81、ヒメクロイラガ
9月、篠原本町5
写真82、ヒロヘリアオイラガ(幼虫)
10月、松尾下公園


■ヒメクロイラガ(幼虫)

 ウスバツバメのところで紹介したサクラ並木の1本にいたイラガの幼虫です(写真81)。

 体はナマコ状で、肉質突起(にくしつとっき)で武装し、いかにも恐ろしげなふうです。触ろうものならひどく刺され、そこに激痛がしばらく残るしっぺ返しがあります。草むらには居ないようですが、いろんな樹木の葉を食べますので注意が必要です。

 成虫は、胴太で茶褐色のはねをしたガです。



■ヒロヘリアオイラガ(幼虫)
 街路樹のナンキンハゼの葉を食べているのは、黄緑に青いすじを走らせたイラガの幼虫で、さきのイラガと同様、街路樹などでよく見かけます(写真82)。

 イラガの幼虫は「イラムシ」と呼び、私が少年のころ、柿の木の下を通っていてよく刺されたもので、その痛さは身にしみています。近年。昔からいたイラガは見かけなくなりましたが、それにかわって、東南アジア方面から苗木などにくっついて日本でひろがりだしているのが、これら2種類のイラガです。

 むやみに恐れることはありません。むしろ、家に閉じこもらずせっせと野外に出ていろんな生き物を識別(しきべつ)する目を養い、無知と戦いましょう。



写真83、カギバアオシャク
6月、神仙寺通2
写真84、ユウマダラエダシャク
5月、南多聞台4


■カギバアオシャク

 山のふもとまで300mほどの住宅地の溝のふちで、小雨の降る朝のこと、青いはねを小さく振るわせているガがいました(写真83)。低い山地から平地にかけて現われるようです。
 
 これは日本で600種類も知られているシャクガ科の一種で、見ばえのするガです。幼虫はぞろぞろと這うタイプではなく、体を強く曲げてのち前へ伸ばして歩く、いわゆる尺取虫(シャクトリムシ)です。


■ユウマダラエダシャク
 民家の生垣には常緑の低木のマサキがよく植えられます。
 
 幼虫はこのマサキの葉を食べますので、市街地ではよく見られるガです。これはマサキの葉の上で子孫をふやす活動をしています(写真84)。

 幼虫は腹脚が1対しかなく、主に胸脚と尾脚だけで移動しますので、尺取虫といわれ、独特の歩き方をします。体は3cmぐらいで黒色の地に黄や白の紋をつけ、5月ごろ成虫となります。はねは4〜5cmで、よく目に付く斑紋(はんもん)をつけています。



写真85、ウメエダシャク
6月、須磨寺1
写真86、シロツバメエダシャク
10月、中島通2


■ウメエダシャク

 まるで蝶(チョウ)のようにはねを垂直に立て、重ね合わせて休んでおり、ガらしくないガです(写真85)。

 やはり前のと同じく、シャクガ科のなかまで、幼虫はウメやサクラなどの葉を食べますので、都市にもよく見られます。

 体は黒色で、白やだいだい色の線や点をまぶしています。尾脚だけで体を立てると、名前のとおり、まるで小枝を突き出したようになり、天敵(てんてき)の目をごまかします。年一回、5〜6月頃発生し、はねの白い模様が目にとまりやすい、きれいなガです。


■シロツバメエダシャク
 うしろのはねの先の方を突き出し、褐色の点紋をつけているところは、まるでシジミチョウのなかまを想わせます。

 幼虫は山中に生えるイヌガヤの葉を食べますが、市街地の公園などに植えられているサンゴジュなども食べますので、やはり市街地でも時々見かけることができます。

 こちらはガらしく(?)はねを広げて休んでいます(写真86)。



写真87、ヒトツメカギバ
9月、神仙寺通2
写真88、リンゴドクガ
9月、ポートアイランド


■ヒトツメカギバ

 民家の玄関先のケイトウの葉に休んでいたカギバガ。名のとおり、白っぽいはねに、薄い褐色の目玉模様が一対あります(写真87)。

 私はまだ幼虫を見たことはありませんが、頭に一対の突起を持ち、落葉樹の葉をカシワもち状につづり合わせて身を隠し、夜、外に出て食事をするそうです。


■リンゴドクガ
 黄色で長い毛を生やした毛虫、その鮮やかな装いは一度見たら決して忘れないほどの印象を与えます。胸の背に一本の黒い帯、それにつづいて歯ブラシみたいな毛の束が並び、後ろの第八腹節目に朱赤色の毛束を筆の穂状に立てています(写真88)。

 派手な幼虫に対し、成虫は暗い灰色で、とても地味ななりをしています。



写真89、ヒメシロモンドクガ
5月、自宅
写真90、チャドクガ
10月、青谷川公園


■ヒメシロモンドクガ

 庭のキショウブの葉に止まっていたドクガですが、食べていたのはその上にあるウメの葉です(写真89)。リンゴドクガと同じように、背に白っぽい歯ブラシ状の毛束を並べ、胸の先端から一対の、黒色で長い毛の束を突き出し、黒とオレンジ色の線を入れた、なかなかおしゃれな毛虫です。


■チャドクガ
 幼虫は、ツバキ、サザンカ、チャなどツバキ科の樹木の葉を食べて大きくなりますが、この親虫はなぜかミカンの葉の上で休んでいました(写真90)。幼虫は頭が黄褐色、体は薄い黄色、背に8対の黒い点をまぶしていますのでよく分かります。触れると激しく痛みますので気をつけましょう。



写真91、マイマイガ
7月、ポートアイランド
写真92、マイマイガ
7月ポートアイランド
写真93、マイマイガ(幼虫)
6月、熊内町
写真94、マイマイガ(蛹)
6月、中原通7


■マイマイガ

 サザンカの幹に止まっていたガはどうやら産卵中のようです(写真91)。

 そこで、「ちょっと失礼」とばかりにはねをつまみ上げ、その様子を見せてもらいました。卵は雌の体の毛ですっぽりと覆われ保護されていました(写真92)。


■マイマイガ(幼虫)
 生垣のウバメガシにいたマイマイガの幼虫(写真93)。おでこに黒くて八の字形の紋を飾っていますので、いっぺんに覚えられます。


■マイマイガ(蛹)
 民家の石垣で見つかったマイマイガの蛹(さなぎ、左)と蛹化(ようか)の直前に最後の脱皮をして脱ぎ捨てた脱皮殻(右)の様子です(写真94)。



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