道ばたに見る春の草たち 広瀬重夫
 カタバミのなかま

写真74,カタバミ
4月,中央区
写真75,カタバミ
5月,中央区


■カタバミ
 カタバミ(写真74)は,道ばたなど,人通りのあるところでよく見かけますので,これを知らない人はおそらくないでしょう.花はよく日の当たるときに開きますので,雨はもちろん,曇りのときは閉じてしまいます.ハート型をした3枚の葉が集まって一つの柄にくっついています.夜はこれら3枚の葉(小葉)はどうなっていますか?

 根はま下に伸びたり,地表をはう茎が根を下ろしたりして,年中生き続けます.
 写真75の花は写真74のものとそっくりですが,葉が赤っぽくなっています.こんなのを見たことはありませんか? アカカタバミと書かれた本もありますが,カタバミにはちがいありません.人類に例えれば,皮膚や髪の毛がちがっていても,学問上はすべてヒトであって,ホモ・サピエン(Homo sapiens)スというのと,よく似ています.



■オッタチカタバミ
 おもしろい名前でしょう.茎は花の咲く前に地表(または地中)をはう茎から高く伸び上がり,1カ所から2本ほど,長い柄をつけた葉を出し,カタバミとはちがった葉のつけ方です.名前について,前と同じように例えますと,ヒトとサルのちがいのようなものです.植物に限らず,名前を付けるというのはなかなかむずかしいものです.

 なおこの草は北アメリカ原産です.カタバミとちがって人の踏みつけには弱いようです.
写真76,オッタチカタバミ
5月,中央区



写真77,ムラサキカタバミ
4月,中央区
写真78,ムラサキカタバミ
4月,中央区


■ムラサキカタバミ
 庭先や植え込みのふち,石垣の間など,よく日の当たるところに見かける,うすい紅色の花は,街の中ではごく普通になっています.もとは江戸時代に観賞用として持ちこまれた草花で,その原産地は南アメリカです.花は美しくても種はできませんので,地中のイモでなかまをふやします.これは無性繁殖(むせいはんしょく)というものです.

 写真77は午前8時で,天気は快晴でした.写真78はその同じ日の午後6時に写したもので,すでに花は閉じていました.なお,この日は4月28日で,日の入りの時刻は午後6時40分と発表されていましたから,実際に閉じたのは日の入りよりも1時間以上も前ということになります.

 カタバミの仲間の葉を,夜に観察してみましょう.


写真79,イモカタバミ
5月,灘区
写真80,オオキバナカタバミ
4月,灘区


■イモカタバミ
 さきのムラサキカタバミより色が濃く,花の中心部がさらに濃くなっています.花の大きさは1.5cmほどで,ムラサキカタバミより少し小さく,原産地も同じ園芸植物ですが,日本への移入はずっとおそく,やはり野生化して,人家近くの草にまぎれて人目をひきます.栽培(人の手入れ)からのがれ,自然状態で生え続けることを野生化(やせいか)といいます.


■オオキバナカタバミ
 カタバミのなかまの葉は,ハート型の小葉が3枚集まって一組になっていますが,紫がかった褐色の小さな点々(斑点)をつけているので,花がなくてもすぐそれと分かります.

 こちらは遠く南アフリカのケープタウンあたりの原産で,園芸用として移入されたのですが,野生化しているのが確認されてからまだ40年ほどにしかならない新しい帰化植物です.花はカタバミの3倍ほども大きく,歩道近くの草に混じって生えているのを見ると,おもわず足が止まります.


カタバミのなかまを比べる
地下部 地上をはう茎 葉のつき方 葉の小斑 花の色 花の大きさ 分布/原産地
カタバミ 主根 ある 互生 ない 0.8cm 暖帯〜熱帯
オッタチ... 根茎 ある 2本ずつ少しずれて ない 1.0cm 北米
ムラサキ... 鱗茎 ない 根生葉 ない 淡紅 2.0cm 南米
イモ... 塊茎 ない 根生葉 ない 濃紅 1.5cm 南米
オオキバナ... 鱗茎 ない 根生葉 ある 濃黄 3.0cm ケープタウン

<用語説明>
主根(しゅこん):種から伸びてきた太くて長い根.それから出るのが側根(そっこん)
根茎(こんけい):地下にある茎.横に長く伸び,節から根を下ろし,地上に茎を立てる.
鱗茎(りんけい):根の近くにあり,茎のぐっと縮まったもの.栄養分をたくわえなかまをふやす手段の一つ.
塊茎(かいけい):地下茎の先端に栄養分をたくわえ,かたまり状になった.なかまをふやす.
根生葉(こんせいよう):根際から出ている葉.根から葉が出ているのではない.うんと縮まった茎から出ている.

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