道ばたに見る春の草たち 広瀬重夫
 マツヨイグサのなかま


 いままで地味なものが多かったので,5月ごろから咲き始める少し派手な草花を取り上げます.

 これからお話しする6種類は,アカバナ科に属し,葉は互生し,花びらが4枚で,めしべの先が4つに分かれ,花は夕刻から咲きはじめ,ヒルザキツキミソウ以外は朝方にしぼみます.

 美しい花は人の目をひき,観賞用として移入されたものが,今は野生化しています.このなかまの一つを「月見草」と呼ぶことがありますが,月見草は花が白く野生化に失敗?して,今では見られそうにありません.

 また「宵待草(よいまちぐさ)」といった風流な名前で呼ばれることもありますが,文学上ならいいとしても,植物研究のうえではまぎらわしいのでマツヨイグサとします.

 それではこれらの6種を写真や比較表を参考にしながらみていくことにします.


写真91,ヒルザキツキミソウ
5月,灘区
写真92,ユウゲショウ
5月,垂水区


■ヒルザキツキミソウ
 夕暮れから咲いて,あくる日の朝しぼんでいく他の5種とちがって,名の通り,真っ昼間も開いています(写真91).庭に植えられていたのでしょうが,今では国道沿いにまではみ出し,きれいな花で人をとらえます.


■ユウゲショウ
 これもやはりescape(エスケープ)型です.にわかにできた空き地や河岸の石垣などで群がって生えていることもあります.思わず手が出そうな花に見えますが,実物は小さくて,あまり目立ちません.


写真93,コマツヨイグサのロゼット
2月,中央区
写真94,コマツヨイグサ
6月,中央区


■コマツヨイグサ
 北アメリカの雨の少ない乾燥地帯が生まれだそうで,それもそのはず,道ばたどころか,海岸の砂浜のような厳しい環境で,もともとの海辺の植物のハマヒルガオが顔負けするような広がりです.

 速いものでは春から咲き出しますので,春のページでとりあげています.

 よるに咲く花は一体誰が花粉を運ぶのでしょう.私はまだ目にしたことはありませんが,夜行性のスズメガ科(蛾)の成虫ではないでしょうか.みなさん,調べてみてください.


写真95,マツヨイグサの若苗
10月,垂水区
写真96,マツヨイグサ
5月,垂水区


■マツヨイグサ
 マツヨイグサの若苗(写真95)は,国道沿いの街園の草地で,細長い葉をたくさん束ねたようにして生やしています.このようなすがたを「根生葉を束生し」と表現します.むずかしそうないい方ですが写真を見ながら感じでわかってもらえるといいです.

 写真96は朝の通勤時に写したもので,よく見てください.花はしぼみかけているものが多く,なかには赤みのかっただいだい色になっているのがわかるでしょう.このなかまで花が閉じると色が変わるのは,マツヨイグサのほか,先ほどのコマツヨイグサです.草の高さは70cm前後です.


写真97,オオマツヨイグサのロゼット葉
2月,中央区
写真98,オオマツヨイグサ
7月,垂水区


■オオマツヨイグサ
 名の通り,大型の葉をロゼット状に押し広げています(写真97).毎年2回は草刈りがあるのですが,たくましく生き続けています.でも,あまり殖えません.ちなみにオランダの植物学者,ド=フリースは,この草の交配実験から,100年前,生物進化のもとを説明する”突然変異説”を発表し,大きな反響を呼びました.

 このなかまでは,高さが1.5mほど,花も一番大型でなかなか見ごたえがあります.私がみなさんと同じ少年のころ,朝早く起きて兄といっしょに加古川の土手に牛の草刈りに行ったとき,この花の咲いていたのを今でもはっきりおぼえています.

 しかし最近はめっきり少なくなりました.写真98は舞子公園のものです.みなさんもさがしてみてください.


写真99,メマツヨイグサのロゼット葉
2月,垂水区
写真100,メマツヨイグサ
7月,垂水区


■メマツヨイグサ
 ロゼット葉(写真99)は,さきのオオマツヨイグサのとよく似ていますが,よく見ましょう.葉の先が円味のあるオオマツヨイグサに比べ,とがっているのがわかるでしょう.大きなちがいは感じられないでしょうが,これが遺伝子(DNA)のしわざであり,単純な「個人差」といったものではありません.

 花(写真100)は,先のオオマツヨイグサと同様,夏の草ですが,このなかまの一つでスタートしたついでにここで紹介します.

 植物の名で「メ」が頭につく,たとえばオマツ(クロマツのこと)に対してメマツ(アカマツのこと),オヒシバに対しメヒシバ,オナモミにはメナモミがあるように,この場合は,オオマツヨイグサと比べたもので,「女性」を表しますが,雌(♀),雄(♂)を区別しているのではなく,花の大きさはずっと小づくりになっています.

 なお,これとよく似たアレチマツヨイグサというのもあるようですが,区別する必要がないという研究者もいます.



生育史 生育型 花の色 花の大きさ 原産地 その他
ヒルザキツキミソウ 多年草 分枝型 うすいピンク 5cmぐらい 北米 昼間も咲く
ユウゲショウ 多年草 分枝型 紅色 1.5cmぐらい 熱帯米 高さ30cm前後と低い
コマツヨイグサ 越年草 分枝・
ほふく型
黄色 1.5cmぐらい 北米 砂浜にも進出
マツヨイグサ 越年草 一時ロゼット
直立型
黄色 5cmぐらい 南米 葉は細くて長い
オオマツヨイグサ 越年草 一時ロゼット
直立型
黄色 7cmぐらい 北米 めったに見られない
メマツヨイグサ 越年草 一時ロゼット
直立型
黄色 3cmぐらい 北米 枝が多い
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<用語解説>
生育型:成長のようす.
分枝型:地表近くでで茎を分け主茎がはっきりしない.
分枝・ほふく型:地表近くで茎を分けたのち,斜上か地表をはうようにして広がる.
一時ロゼット直立型:幼植物はロゼット型(根生葉)で,花どきの成植物では根生葉が枯れ,主茎が直立するタイプ.
主茎(主軸):木に例えると一本の幹にあたる中心軸.そこから枝が出る.

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