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4.前葉体を見る
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身近なシダの胞子をまき、発芽させ、前葉体からさらに有性生殖を行い胞子体へと育っていく過程を観察しよう。
スギナの項で、その生活史をみたが、ここでいま一度、シダの生活史をみよう。熟したシダの胞子が胞子のうからはじき出て湿った地上に落ちる。落ちた胞子は時間がたっていくと発芽をはじめる。発芽に要する時間はシダの種類によって異なり、数時間で発芽を始めるものから、かなりの日時を必要とするものまでさまざまだが、普通は1週間から2週間以内で発芽する。
発芽に必要な条件としては適当な水分と温度、それに光(種類によっては必要ない)である。発芽に必要な温度は、種子の発芽の場合と同じで、摂氏20度から30度が最適のようである。しかし、かなり低温でも発芽するものもある。
とにかく、育った前葉体は、普通ハート型をした幅1センチくらいの大きさのもので、腹面には造精器と造卵器の両方をつけ、下の方には仮根が多く生えている。
自然の中で、前葉体を探すにほ、よほど注意を払うか、また、適当な場所に出合わないと見つからないが、一度多く生えている環境を知ると、案外各地に見られるものであることがわかる。神戸の裏山でも、湿度の十分ある花崗岩上、切り通し、洞穴などに多くのシダの前葉体が見つかる。水分もあり、空中湿度も高く、水はけのよい場所には胞子体の幼植物も多く生えている。
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しかし、野外の自然での前葉体の観察では不便さをともなう。出かけて行って観察できる前葉体が見つかるかどうかわからない。たとえ、観察でき、採集できた前葉体でも、どの種類のものであるか、まずはっきりしない。種類の不明な前葉体では意味がない。
したがって、ある決まった種類の前葉体を観察しようとすると、自分で培養していかなければならないことになる。完備した温室がある場合には、一番簡単なやり方は、栽培しているシダの葉の下にミズゴケを敷きつめておくと、やがて前葉体が育ってくる。実験や観察用に育てる場合は、前もって熱湯消毒をした素焼きの鉢などを用意し、その中に3分の2くらいのミズゴケを入れ、胞子を播く。鉢の中の温度がほば一定に保たれるようにふたをし、鉢は水をはったシャーレ、または容器に入れ、日陰の適当な温度の所へ置く。1か月もたつと前葉体が育ってくる。
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前葉体まで育て、観察するには、このようなミズゴケの中で育てるのがよいが、胞子体の段階まで育てるにはミズゴケだけでは育たない。なぜなら、ミズゴケだけでは肥料分がなく、ほとんどが前葉体の段階で育ちがとまってしまうからである。
京大の光田重幸氏は、外国のシダ研究者との胞子交換で、今では世界中のおもなシダを育てているが光田氏は鉢の中にミズゴケだけでなく、肥料分のあるスギの皮を入れている。水はけをよくするために軽石を使い、それらを混ぜ合わせたものに胞子を播き、前葉体が発芽するまでビニル袋で鉢を包んでいる。前葉体から幼植物に育った段階で包んでいた袋を取りはずし、鉢を回し水、流れ水の中につけて、育てている。ほとんどのシダが育つようである。
シダの前葉体ならびに染色体を観察する場合調べる材料として、何がよいだろうか、もっとも適したものの一つとして、ゼンマイがあげられる。
その理由として、シダの染色体の研究をしている平林春樹氏(桐朋学園大)は次の点をあげておられる。大いに胞子をまき、観察したい。
- ゼンマイは分布が広く、どこでも得られる。
- 早春に染色体観察材料(実葉の幼芽を使用する)が得られるので、それ以降冷蔵しておけば一年中使用できる。
- 実葉には葉肉がなく、袋の大きな胞子のうだけがつくので、材料が多量・純粋に得られる。
- シダとしては染色体が大きく、数も少ない(n=22)ので観察しやすい。
- 前葉体は比較的大形であり、また造精器も大きい。
シダの形は、シダの外部形態・内部構造・胞子・前葉体・染色体など、いくつかの形質を総合的に考察することによってはじめて理解することができ、シダの群・種類分けも可能になるのである。
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温室内で胞子体に育っているリュウビンタイ・ナナハゲシダ.中央の鋸歯
のある葉のものがリュウビンタイで,全縁のものがナナバケシダである.
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