神戸の自然シリーズ19 アカシ象発掘記 神戸の自然研究グループ
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1.神戸で見つけたのに、なぜ明石象

 伊川谷の発掘現場を訪れた地元の人たちの中から、こんな質問をよく受けた。

 「明石で発見されたのでアカシゾウと言うんなら、この象はなんでコウベゾウと言わないのか。神戸象いうてもええんと違うか。」

 「伊川谷でとれたんやから、ここへ置いてほしいし、そうなると伊川谷象か、吹上象やなぁ。」

 この疑問や発想は地元の声としては、当然のことであるが、ここで化石の命名について少し説明がいる。化石につけられる名前(種名) については国際的な命名規約というのがあり、ふつうはこれに従って名づけられる。そして名前をつけるのは、世界で初めて発見された新しい種(新種) に対してのみ命名するのである。

 アカシゾウは昭和11年、明石海岸の林崎粘土層から発見された臼歯を研究した高井冬二博士がパラステゴドン・アカシエンシス (Parastegodon akashiensis Takai 1936)と名づけた。パラステゴドン属の象であるが、歯の形態からみて、これまでに報告されている種とは違うので新種であると判断した。種の名前は明石で発見されたのでアカシエンシス(明石産という意味)とする。これから発見されるこの種はアカシエンシスと呼ぶべきである。この論文は帝国学土院記事という学会誌に英文で報告されている。高井博士は、とくに日本名はつけなかったのであるが、地質学者の間では慣用的にアカシゾウと呼んでいたのが、一般にも使われるようになったのである。

 もし神戸象と呼ぶのなら、今度の標本は、昭和11年のアカシゾウのタイプの象と明らかに体の特徴が違っており、別の種として扱うべきであるという研究成果が発表され、そして種名にコウベエンシスと命名されば、天下晴れてコウベゾウの誕生となる。

 しかし今のところは、アカシ象とは同じ特徴をもつ象であるというのが研究者の見解である。ただ今回の標本は、これまでになく多くの部位、体全体の骨格が部分的ではあるが揃いそうである。昭和41年に発掘が完了した紀川標本とを合わせると、ほぼ完全にアカシゾウの復元が可能になる。これは後で触れるが、もしかすれば、アカシゾウのグループで一番早く命名されたアケボノゾウ(1918)にアカシゾウも含められてしまうかも知れない。


※改訂注 その後の研究で、アカシゾウ(Stegodon akashiensis)は、アケボノゾウ(Stegodon aurorae)と同じ仲間であると考えられるようになった。したがって、正式な名称としては、アカシゾウではなくアケボノゾウとよぶのが正しい。
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