神戸の自然シリーズ19 アカシ象発掘記 神戸の自然研究グループ
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4.アカシ象の頃の世界の象

 アジア・中国北部には黄河象のほかにジゴロホドン・ボブソニとステゴドン・プレオリエンタリスとエレファス・プラニフロンスに似た象がいた。中国南部にはテトラホドン、シノマストドン、ステゴドン・プレオリエンタリス、ステゴドン・ツァオトンゲンシスがおり、南にさがってインドシナ半島にはステゴドン・エレファントイデス、インドネシアのジャワ島にはステゴドン・トリゴノセファルス、マストドン・ブミアジユエンシスが報告されている。

 インド地方ではエレファス・プラニフロンス、ステゴドン・インシグニス、ステゴドン・ガネサ、ステゴドン・ボンビフロンスと多彩である。

 アカシゾウの生息した鮮新世後期〜更新世初期の世界における象の分布で、もっとも注目すべき地域はアフリカである。アフリカには、当時すでに現在の象の祖先型のエレファス、ロクソドンタ、バレオロクソドン、マムサス(マンモス)が分化していた。そして第四紀に入り、エレファスはインドに渡りインドをはじめアジア南部に分布するインド象となり現在にいたっている。ロクソドンタはアフリカに残り、アフリカ象となる。マムサスは最古のものが、最古の人類化石といえるアウストラピテクス・アフマンレンシスとともにエチオピアから発見される。しかし、第四紀がはじまる前にアフリカから姿を消しヨーロッパからシベリアまでにかけてユーラシアで進化し、全身を探い毛におおわれた巨大な象としてよく知られたマンモス象(マムサス・プリミゲニウス)となる。マンモス象は数千年前に人類の乱獲により絶滅してしまう。オウストラロビテクスや初期の人類進化を証拠づけるホモ・ハビリスの遺跡と伴って産出するのが、パレオロクソドンとロクソドンタである。

 ヨーロッパでは第三紀の遺存型のアナンカス象とジゴロホドン象、マンモス象の祖先といえるマムサス・グロモヴィ、マムサス・メリディオナリスいた。またアメリカにはアメリカマストドン象とステゴマストドン象とマストドン系の象が分布していた。

 それではアカシゾウはどこからきたのか。さきにも述べたように、中国の黄河象にアカシゾウの頭骨の特徴がよく似ているという。しかし、朝鮮半島からはこれまでのところ、ステゴドン象の産出報告はない。

 そうすると、東シナ海の陸橋を渡来するコースが考えられる。陸橋というのは、現在は水面下に没しているが、かつて海面が低下していたような時期には陸地であり、生物が自由に行き来できた場所をさすのである。アカシゾウと共に出てくるメタセコイアなどの植物化石や淡水貝など中国の化石と共通するものがあり、それらはこの東シナ海陸橋渡来説を支持する。

 黄河象が日本に渡ってきて、そのあるものからアカシゾウが分化したのか、あるいは中国ですでにアカシゾウが分化して日本に渡ってきたのか。こうした問題をふくめてアカシゾウ誕生と渡来に関しては今後の問題とされる内容が多い。

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