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サルノコシカケ科の化石 Parapolyporites japonica TANAI
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▲発見場所
西区研究学園都市
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▲枝についているようすがよくわかります
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▲炭化したところに小さな穴がみえる
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▲サルノコシカケ科の化石を発見した地層:今はなく学園東町になっている
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この化石を発見した場所は、須磨区と西区にまたがっている名谷の研究学園都市の区画内でした。今では地下鉄が走り、住宅もだいぶ建っています。
1982年4月29日、その日の事はいまでもはっきり思い出せます。崖の法面(のりめん)の大きなかたまりをテコで落としてハンマーで割っていたのですが、たまたまテコでくずしたかたまりが上から斜面をころがり二つに割れました。その割れた面を見ると、木にキノコがついた状態の化石がありました。変なものをみつけたなと思い、サルノコシカケみたいやなと思いました。でもその時はこんなキノコ類の化石はたくさん発見されていると思い、そんなに驚きませんでした。家に持ち帰り、文献で探してもキノコのことを報告した論文はなく、これは大発見になるかも知れないと思いました。
それから、これはどんな名前の化石なのか調べてみたいと、ずっと考えていました。しかし、私の手許には化石を同定するのに必要な文献が少なく因っていました。そこで教育研究所の前田保夫先生に相談したところ、北海道大学の棚井敏雅教授に同定してもらってはと言われ、棚井教授を紹介していただき、1983年(昭58)の8月にお合いしました。先生は即座に「珍しいものだ」と言われ、「こんなキノコの化石は見た事がない」とも言われました。すぐには同定できないので、しばらく手元において調べてみたいとおっしゃいました。
その年の12月には、この化石はサルノコシカケ科のツヤウチワタケ属とカワラタケ属との二つの属の特徴を兼ね備えたもので、両属の共通の祖先と考えられ、キノコの進化を探る上できわめて重要な化石であるとの研究結果をいただきました。
そして、1984年の1月には日本古生物学会で、Parapolyporites の新種として報告されました。
1984年4月には学会誌に発表するということで、産地と層準などを聞いてこられました。そして手紙には、新種として論文を発表する以上、永久保存のできる機関で標本を保存するのがよいと言われ、両面ある片面を国立科学博物館に寄付してはと、ありました。古生物学の研究のためにと思い、自分だけのものとはせずに誰でも見られるよう国立科学博物館に寄付しました。
1987年1月、植物研究雑誌第62巻第1号にその論文が掲載されました。
この化石の特徴は、小さな穴のようなものがたくさんあります(写真)が、これが、この化石の価値を決めるうえで大変重要な決め手になりました。この穴は管孔といい、キノコの胞子を出すところなのです。この大きさと形が、種を決定するポイントになります。
ここで棚井教授の論文を引用してみます。
『この化石は半円形子実体の炭化標本で、無茎表面に円心状の環紋と放射状の浅いしわを有する。子実層托は極めて薄く、管孔上、管孔は円形、孔縁はほぼ平滑である。これらの特徴からこの化石はサルノコシカケ科に属すると考えられ、カワラタケ属およびツヤウチワタケ属の現生種と共通した特徴をもっている。しかし、子実体の内部構造の詳細は不明であるので現生属には同定できない。また、世界各地から従来報告されたサルノノコシカケ科化石の大半とは子実層托が極めて薄い点で異なるが、グリーンランドの第三紀層から Polyporites として報告されたものにやや似ている。しかし、この属の原記載標本はキノコ化石であるかどうか疑わしい。そこで神戸層群産の化石は新しい形態をもつ属 Parapolyporites として記載した。』と書いてあります。
このようにしてサルノコシカケ科の新しい属がこの化石によって生まれました。一つの化石だけからでもその保存がよければ、新しい属が設定される。化石の研究はやはり個人では限界があり、本当に研究してもらえる機関がよいと考えられます。おおげさかも知れませんが、人類の財産としても貴重な資料を発見できた喜びを味わうことができました。
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