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1.現在の六甲山の森林
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10,000年前から現在にいたる間の森林変遷を述べる前に、現在の六甲山に生えている植物の垂直分布についてみてみよう。
900メートルをこえる六甲山は、樹木が全面をおおって、見事な緑の斜面をっくりあげている。数年前から猛威をふるっているマツクイムシによってマツの枯れ木は、西から東へだんだん増加しているものの、やはりマツが六甲山では圧倒的に多い。そのほかアセビやコナラなども多い。これらは、いわゆる二次林といわれる樹木で、六甲山に人間の手が加わって、ほんらいの自然林が伐り倒されたあとに繁茂した木である。
しかし、六甲山に自然林は全くなくなったわけではない。各所に潜在植生といわれる、ほんらい、その場所に生えていた樹木も残っている。岸本浩さんはそれらを手がかりにして自然林の垂直分布を上のように区分している。
- ・シイ林
- シイを主とする林でヤブツバキ、ヤブニッケイ、モチノキ、カゴノキ、カクレミノなどが見られる。大山寺の森はこの典型であり、再度山の大竜山付近はシイ林の上限にあたる。
- ・カシ林
- アカガシ、ウラジロガシなどのカシ類を主とし、アセビ、ヒメユズリハ、ミヤマシキミ、などが見られる。本書の表紙のカラー写真は、摩耶山の天上寺付近の森を撮っているが、ここはアカガシを主とする林である。さきのシイ林とともにシイ・カシ林、常緑広葉樹林、照葉樹林などとよばれている。
- ・イヌブナ林
- イヌブナを主とし、アカシデ、イヌシデなどが見られるが、六甲山頂近くでは、ブナ、ミズナラ、ミヤコザサ等も生えており、ブナ林要素が入ってくる。
玉津環境センターの地層で試みた花粉分析では、約7,000年前には、コナラやイヌブナを中心とする落葉樹の森林であったが、その後の1,000年間に、カシ類が多くなって常緑樹中心の照葉樹林に大きく変わったことが予測されると書いた。また、ポートアイランドの海底下の15,000年前を示すピート層からは、トウヒ、ウラジロモミ、コメツガなどの針葉樹の多い森林があったことを示す花粉化石が得られたことを紹介した。
これまでに行なった大阪港の港大橋と神崎川口の中島大橋、玉津環境センターの花粉分析の結果から、神戸の森林(とくに海岸低地から山麓丘陵地の間に生育していた樹木)の変遷をさぐってみたい。これら三地点の花粉化石の産出状況は次にあげたが、ここに共通して認められるのは、7,000年前から6,000年前にかけて、落葉樹林から照葉樹林へ森林が大きく移りかわったことである。
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