神戸の自然シリーズ4 六甲の森と大阪湾の誕生
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−1.落葉広葉樹林時代(10,000年〜7,000年前)

 ナラ類(コナラ・ミズナラ)の花粉が高い率で出現し、20〜40%(草やシダ類も含めて)に達する。そして落葉性の広葉樹が針葉樹を上回っている。広葉樹ではナラ類のほかにオニグルミ、サワグルミ、ヤナギ、カバノキ、ハンノキ、シデ、ハシバミ、ブナ、カシ頬、エノキ、ケヤキ、トチノキ、カエデ、シラキ、キハダ、シナノキ、モチノキ、アカメガシワ、ハイノキ、トネリコなどがあり、針葉樹ではモミ、トウヒ、マツ、ツガ、スギ、コウヤマキ、マキなどの花粉が出てきた。これらの樹木の多くは、カシ類、アカメガシワ、マキなどをのぞいて、現在の東北地方の丘陵や低山帯に生えていたり、近畿地方では1,000メートルぐらいの高さに生えているものが多い。そして針葉樹やカシ類をのぞけば、秋に黄葉し、落葉する温帯北部の樹木が多い。


大阪港、港大橋下の花粉胞子化石産出頻度図 (前田保夫,1980)

神崎川口、中島大橋下の花粉胞子化石産出頻度図 (前田保夫,1980)

神戸市玉津環境センターの花粉胞子産出頻度図 (前田保夫,1980)


 この落葉樹主体の森林の移りかわりをもう少し詳しくみると、9,000年前のころは、ナラ類が安定して高い出現率を示す時期である。この40%にも達するナラ類はいったいどんなナラなのか。このナラ類の種をきめることは、当時の森林社会の構成をきめたり、気候を復元するのに大きい影響をもつ。わが国のナラ類にはミズナラ、カシワ、コナラ、アベマキ、クヌギ、ナラガシワなどの種類がある。さきに花粉粒の形態は、種類によって特徴があり、この特徴から親の植物がわかると述べたが、厳密にいえば、それが適用できるのは属までのレベルで種の区別に役立つ場合は少ない。ナラ類(コナラ亜属)も同様で、光学顕微鏡では種の区別はできない。けれどもナラ類のうち、アベマキ、クヌギ、ナラガシワなどは、カシ類の多い温帯南部に生育している樹木であることから考えて、この時期の神戸の低地部にはまだ生えていなかったから、まず種判定の問題からはずしてもよい。そうすると残るのはミズナラ、カシワ、コナラである。カシワは風当りの強い海岸地帯で、海に沿った海岸林をつくることが多く、他にも尾根筋や緩傾斜地に生えるが大規模な純林をつくることは少ない。当時大阪湾には本格的に海が入ってきていない状態であったから、生態的な立場からみて、これも対象外としてもよいだろう。問題はミズナラとコナラである。

1 モミ類 3 マツ属
2 トウヒ属 4 マツ属 7 スギ
5a ツガ属 5b ツガ属 8 スギ
6a コウヤマキ 6b コウヤマキ 6c コウヤマキ
原著倍率1,2,5:300倍、3,4,7,8:500倍、6:550倍 (Maeda.Y., 1977)


(次ページへ続く)

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