神戸の自然シリーズ17 神戸の地層を読む2
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あ と が き


 私たちが西神戸の地層を調べだしてから、10年以上が過ぎました。今まで地層を追い記録してきたフィールドノートが10冊以上もたまりました。この本を書くにあたって見直すことになった当初のノートは記載も不十分で、考えかたもコロコロ変わっています。この10年が私たちにとって、地層の見方についての試行錯誤、学習の期間であったことがノートの記録に表れていることがわかりました。

 ところで、私たちがこのように地層を追い続けてきたのはどんな意味があったのでしょうか。『神戸の地層を読む1』を6年前に出した時、ある新聞でこの本を「開発の波に沈む自然への鎮魂歌」と紹介してくれました。

 神戸市の西部の丘陵地帯は1970年代から大規模な宅地造成の工事が行われ、現在も続いています。かつて、ツツジが咲きみだれ、ほとんど人が足を踏み入れることのなかった丘陵が今は多くの団地や住宅の建ちならぶ新しい町に変わっています。

 もし、このような大規模な開発がなかったら、この本に書いてあるような新しい発見はなかったことは確かです。自然のままの土地では地層は植物や表土におおわれてその姿を見せてくれないからです。開発工事が私たちに絶好のフィールドを提供してくれたともいえます。しかし、開発に伴って出現する地層は、またたく間に消え失せてしまう運命にあります。これらの地層は少なくとも過去数10万年かけて自然がつくりだした自然の歴史の記録です。考古学の遺跡はかならず本格的な発掘調査をして記録に残すことが義務づけられています。しかし、人類が直接関係しない地層については、ほうっておけばそのまま葬り去られることになってしまいます。その記録がなくなってしまう前に、残しておきたいという気持が地層を追い続けてきた第一の動機でした。

 小学校や中学校での地層や岩石の学習はたいくつで面白くないという声を聞くことがあります。それは、一般的で抽象的な「地層のでき方は」とか、「岩石の種類は」という学習が中心になっているからです。

 私たちの生活する大地は、人間の生活のスケールよりはるかに大きな時間のスケールでつくられた自然史の産物です。その自然の歴史を語ってくれる地層や岩石の学習は、ほんらい「たいくつ」なものではなく魅力的なもののはずです。

 自分たちのすむ地域の自然の歴史をリアルに子どもたちに語ってみたいというのが、私たちの第二の動機であり目的です。

 この本では、このような目的がある程度達成できたのではないかと思っています。しかし、まだまだわからないことはいっぱいあり私たちの仕事はこれからも続けなければならないと実感しています。

 この本は私たち二人だけの力でできあがったものではありません。特に、「神戸の自然研究グループ」の先生方には、日曜日や休日を使っての共同調査に参加していただきました。また、藤田和夫博士(大阪市立大学名誉教授)、石田志朗博士(京都大学助教授)、松島義章博士(神奈川県立博物館)を始め多くの研究者に現地で指導していただきました。山口寿之博士(千葉大学助教授)、池谷仙之博士(静岡大学教授)、北里洋博士(静岡大学助教授)、佐藤裕司さん(兵庫県企業庁)には未公表のデータを提供していただきました。これらの方々に感謝いたします。

 この調査は、前田にとっては近く発行される新修神戸市史第一巻・自然考古篇の執筆のための調査としての意味を持っていました。年代測定やその他について市史編集室に便宜をはかっていただきました。

 觜本にとっては、兵庫教育大学の院生として(1987〜8年)の修士論文のための研究でもありました。この間、指導していただいた徳山明教授はじめ大学関係者の方々に感謝します。

 神戸市開発局の方々には、工事中の現場への立ち入りに便宜をはかっていただきました。

 また、神戸市立教育研究所の川田尚介所長はじめ所員の方々、神戸中学校の先生方には、つねづね励ましや助言をいただきました。これらの方々に感謝いたします。

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