神戸の自然シリーズ6 神戸の野鳥観察記
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■2.モズ −速贄と物真似
雛を育てるモズ 抱卵中の雛に餌を与える雄

1.神戸のモズ・移動と繁殖

 モズは秋の鳥としてよく知られている。それはこの鳥が秋になると、人里近くにあらわれ、甲高い声で鳴き立てるので、日頃は野鳥に特別関心のない人びとにも、「モズが来たな」と感じさせるからである。

 モズが人家近くにあらわれるのは、秋分のころから十月初旬にかけてである。そして、高く澄んだ秋空の下、色づいたの梢で高鳴きをしている姿が、この鳥にもっともふさわしい。見晴しのよい高い枝で、尾羽をぴくっ、ぴくっと、先が円をえがくように上下させながら、まわりを見張っている婆は、精悍そのものである。小柄ながら猛禽にふさわしい風格をただよわせている。住宅地ではテレビアンテナが格好の止り場所になっているのは、不自然といえば、不自然だが仕方のないことである。

 冬に入ると、モズはいなくなると思っている人が多いが、数の上では秋と大きくちがわない。冬に目立たないのは、次のような理由からである。

 秋の高鳴きの目的は、冬の山間のテリトリーを仲間に知らせるためといわれている。ふつうの小鳥は、冬になると群れて生活する場合が多い。しかし肉食のこの鳥にとって、冬は食物が欠乏し勝ちで、それを得るためには十分な領土を確保する必要がある。だからモズは群れをつくらず、つねに単独である。そして、自分のテリトリーに侵入してくる同種の仲間との間にも、はげしい争いを展開し、強者がその地を独占し、弱者は追放される。

 秋になると、寒い北国や山の上からつぎつぎに移動してくる。すでにその地に生息するものとの間に、争いが絶えず、ときには取っ組み合いも起こり、高鳴きしながら追い合う姿をたびたび見かけるようになる。

 冬に入ると、それまでの争いで、それぞれのテリトリーはもはや決まっていて、新参者とのテリトリー争奪戦もなく、それぞれが決った場所に生活しているので、鳴く必要もなく静かになるのである。

 ひとつの領域を雄雌2羽で共有することもあるというが、繁殖期の早いこの鳥は、冬の間につがいが構成される必要があるからであろう。

 田畑や里山のモズは、他のどの小鳥よりも早く巣作りをはじめる。池の堤防の低木林や都市に近い山などでは2月下旬〜3月上旬がその季節にあたる。そして、ここで孵った雛は、順調な年には4月中旬から下旬に、遅れた年でも5月中旬頃には巣立つ。その頃は親鳥が幼鳥に餌を渡す声や、警戒の叫びなど騒しい声を聞く。だから、年と場所によっては冬の間、静かだったモズがふたたび目立つことがある。しかし、秋のようにどこにでもというほどではない。

 春の巣は、外敵から受ける被害がきわめて大きく、巣立ち成功率は2割にも満たない。卵や雛を失った親鳥は、ただちに、その地を去り、姿を見せなくなることも、目立たない一因である。

モズの育雛 モズの越冬地 垂水区ジェームス山

 山村のモズは、被害にあった時期が早ければ、近くで巣をつくることもあるようだが、西神戸や高取山あたりでは、移動してしまうのがふつうである。

 六甲山上では四月頃になっても、少しずつ増えてくる傾向がみられるので、そのようなモズがのぼってくるのではないかと想像される。低地で雛の巣立ちに成功した親鳥は、その後、かなり長期間にわたって巣立ち雛の費育を続けるようだが、雛の一人立ちとともに姿を消すのが通例である。

 だから、夏にも田んぼの周辺の森や低い山に残るモズは、ほとんどが春に生れた幼鳥であって、その数は少ない。

 六甲山上では、6〜7月にも巣卵があることからみて、低地で繁殖を終え、山へ上ってもう一度産卵する余裕があることになる。はたして低地で繁殖に成功した個体が、もう一度山上で繁殖するか、どうかは調べていない。また年によっては、真夏に成鳥が低地に残っていることがあるが、その理由はまだつかんでいない。

 9月頃まで山で過ごしたモズは、秋風とともに里に下り、北国からくる仲間とともに領域を争う高鳴きをはじめる。本州の中部山地や東北、北海道では夏鳥的な活動をするモズが多いというから、神戸は、これらの地方から渡ってくる冬鳥を多く迎え入れていると見られる。それらと夏を六甲山などで過したものと、どの程度交代しているかについては、まだ明らかでない。

 神戸市全域からみると、モズは秋冬に多く、とくに西神戸の農村地帯では、春一番の繁殖後はほとんど見かけない。このような状態からいえば、神戸のモズは冬鳥に近い野鳥であるといいたい。ただ六甲山上のモズに限れば、夏は多く、冬は少ないから、北日本的な渡りをするといえる。これは、気温など気候的には六甲山上は、北日本の低地にあたるから当然である。

 モズは森林にすむ鳥ではない。農村の田畑の中にある小さい森、池や川の土手の繁み、草原の縁りの低木林や、山でも低い木立ちの明るい所などにすむものが多い。森の多い六甲山でも深い木立ちには、モズは見つからない。ゴルフ場をとりまく低い林や、ドライブウェイに面した何でもないような林の中に多い。人間の手でいくらか破壊されたような自然が、モズには最適の環境である。冬になって住宅地の庭の植込みや公園緑地などにあらわれるのは、こうした適応のひとつの例といえよう。

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