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1−2.アカシ象の産状は語る
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(前ページからの続き)
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象牙の根元の密集部は臼歯や下がく骨、頭がい骨のくだけたものが集まっている。
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大たい骨と上腕骨が並んで出てきた
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それを考えるために300点近くになると思えるアカシ象の骨の産状を見ることにしょう。まだクリーニングを終えていないために不十分なものであるが、だいたいの様子は分かるだろう。
骨は4mの幅で6mにわたって散らばっているが、密集しているのは3m×4mの四辺形内である。
バラバラになった骨が水流によって運ばれて集められたと考えるには密集しすぎである。これ程大きな骨を運ぶほどの水流は考えにくいし、象牙や首の骨(頸椎)がほとんど無傷で残っていることなどからも象の体はほぼ形を保ったままこの地点にやつてきたものだろう。
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アカシ象はこのようにして
化石になった
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形を保ったまま地層中に埋もれたとも考えにくい。骨は密集はしているが、大腿骨とならんで上腕骨があったり、かかとの骨(踵骨と背骨(胸椎)や肋骨が重なるようにあるからだ。象の体長を3m、体高を2mと考えると骨の密集している範囲はそれよりもひと周り広い範囲である。各部位がバラバラに分散しているとは言っても一定のまとまりが見られるのも確かである。象牙、臼歯、下あご、頭がい骨などのかたまった部分、手足のコロコロした骨が多く出る部分、四肢の大きな骨の集まった部分というふうに分けられる。
形を保ったままこの地点に流れついた象の死骸は頭を上流側に尾方を下流側にして泥湿地(沼)の底に横たわったと考えられる。腐敗が進み、ガスが体内にある間は死骸の比重は水よりも小さいものであるから、わずかな流れでも浮かぶようにして容易に運ばれるだろう。この場で肉が完全に腐敗して骨格のみになった象の死体は次々に堆積してくる砂やシルトにうずめられる事になるのだが、この過程で骨は再配列をする。大きな象牙は、その場から動かないが、手足の部分のコロコロした形の骨は、沼のより探い方、下流側に移動する。
もちろん四肢の長い骨や肋骨なども下流側へと移動する。この過程は新たな堆積物が上にかぶさる過程と同時に進行し、長い骨は折れ、その関節部などは、まだ筋肉が付いていたため、とり残されるように壊されていった。
肋骨など細長い骨の向きに注目してみると、流れにそう方向のものと、流れに直交する方向のものが多いことに気が付く。流れの抵抗を小さくするように向きをかえたものが前者であり、ころがるようにして堆積物と共に移動したのが後者であるとも考えられる。
すでに、たまっている堆積物は、その後、上をおおう堆積物によって圧密をうけ押しちぢめられる。その時、骨のあるものは破断する。地層中のラミナが激しくみだれていること、折れた骨がわずかにずれた状態で配列していることなどが、その事を物語っている。骨のあるものの一部が陥没しているのは地層の圧力によるものであろう。その時の骨はかなり硬いものであったことはその破断面がギザギザの鋭角をもった面として両面が保存され、くだけていないし、表面にひびわれがないことなどのことから推定される。
かくして象の骨格はこのチャンネル堆積物にとじこめられ200万年後の私達の発掘まで静かにねむることになるのである。
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圧密をうけてつぶれた骨
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第一肋骨は、このようにして配置していた
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ところで私達は解決できない大きな疑問を一つ残している。今回発掘された骨は象のものだけではなかった。シカの角と歯のついた下顎、いくつかの骨片も同時に見つかったのである。
なぜ大量の象の骨の間にシカの骨がいくつかまぎれるように入っているのだろうか。シカの角や骨は、いずれも堆積物の最も下部、しかも下位の青粘土に一部つきささるような形で入っている。この地点にシカの骨が流れついたのは象よりもややはやい時期であったとは考えられる。しかし、なぜ同一の場所にそれがあるのだろう。クリーニングのすんだシカの足の骨には、おそらくネズミにかじられたと思われる傷があったのも興味深い事実である。
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