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4−2.アカホヤ火山灰の発見
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(前ページからの続き)
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時間化石として重要な指示者になる広域火山灰と考古学編年との関連を重くみた考古学の坪井清足さんの提唱で、昭和54年3月、火山灰と考古学のシンポジウムが奈良で開かれた。考古学と火山学、地質学という研究領域をこえた学際研究会である。その席で町田さんは鬼界カルデラから噴出した火砕流が海をこえて100キロメートルも離れた大隅半島にまで到達しているといい、鹿児島県の新東さんは南九州の縄文土器の一種である塞ノ神(せのかん)式土器はアカホヤ火山灰よりも上位には見あたらないという。これは当時の南九州の人たちがこの火山活動で潰滅的な打撃をうけたことを意味している。この報告を聞いて、鬼界カルデラの外輪山の一部が残っている薩摩硫黄島を訪ねてみたくなった。
学校が春休みになって、私たちは薩摩硫黄島へ旅立った。鉄道と船を利用した調査旅行ならば旅というにふさわしい長距離である。鹿児島まで行き、そこから先きは3日おきの定期船に乗る行程である。ところが、朝早く大阪空港を発ち鹿児島空港からはアイランダーという8人乗りの小型プロペラ機に乗りついで昼前には、もう目的の産摩硫黄島に着いてしまった。
春がすみの洋上には、海面から躍りでたような活火山の荒々しい姿よりも先きに、噴火口から噴き出るイオウの臭いのほうが窓ごしに歓迎してくれた。眼下の海面はイオウの色で黄白色である。
島の人口、200人というのは、ここも本土の農漁村と同じく高齢者の多い人口構成で、ひっそりとした島である。この島の唯一の避難港が大浦海岸にあり、小型の爆裂火口を想像させる直径100メートルに満たない湾入部がそれである。そこへおりる崖の途中にアカホヤ火山灰が、軽石層とともに残っていた。この島は全島が火山噴出物でできているから、かえって特定の火山灰層を探すとなると、私たちのような火山調査の経験のない者には難しいものである。なお、この薩摩硫黄島と隣りの竹島とが鬼界カルデラの外輪山の一部であり、カルデラの本体ともいうべき凹部は海底にある。
一夜あけた翌日の午後から思いがけなく、春先き特有の突風、春一番に見舞われた。風速30メートルの強風は、われわれを一歩たりとも外へ出させぬ威カで吹き荒れた。島までの片道切符の旅は、たやすく運んだものの、帰りは思うにまかせぬ長途の旅を体験することになった。ちなみに、この島は、かつて鹿ケ谷の謀議が露見して流された僧俊寛の没した鬼界ケ島である。
3日後、ようやく風もおさまり今度は連絡船で鹿児島港に戻った。そして大隅半島の先端近くの大根占(おおねじめ)町に行った。ここの川田代には、鬼界カルデラから噴出した軽石、火砕流、火山灰が残っている。町田・新井さんの論文を片手に、私たちは早朝6時に宿をでて、雨中の調査をはじめた。海抜100メートルをこえる尾根筋を走る道路に面した崖に、ひっそりと目指す火砕流は残されていた。まず、厚さ1メートルの軽石層があり、その上に硬い火砕流が1.5メートルの厚さでつづき、最上部には火山灰が50センチの厚さで重なっている。火山活動の1サイクルを示す堆積の順である。
鬼界カルデラの噴火のとき、まず軽石が大量に噴出して、この火山と大隅半島との間の海上を埋め、浮き桟橋のようになった。そのあとに続いて噴出してきた高温の火砕流が、軽石の桟橋の上を流れ、ここまで達したのである。そして火山活動の終えんを告げる火山灰の噴出と降下があった。そのときの火山灰が玉津まで飛んできたのである。このように書いても実感として理解してもらえぬと思う。火山国である日本でも、カルデラを形成するような大規模な噴出活動は、有史以来起こっていない。われわれが歴史書で読んだり、聞いたりする浅間山や桜島の噴火は、このカルデラ形成の火山活動には比べようがないほど規模が小さいのである。
喜谷さんからもたらされたヒメシラトリガイとイボウミニナの化石は、消えた玉津の縄文の海と落葉樹林を再現させ、鬼界カルデラの噴出期をきめる年代測定まで、研究の道を拡大し、発展させてくれた。それぞれのできごとについては、もっと詳細な内容が解明されてきているが、ここでは、どのようにして過去の自然を再現するかという手法の紹介に関連して述べた。したがって、その内容をかなり端折って短絡的に書かざるを得なかった。
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| 資料 明石市帯で採集された貝化石 |
明石市内のビル工事や明石川の橋梁工事のときにも多くの貝化石が採集されている。安藤保二さん(前神戸西高等学校)は次の45種を報告している。
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- 巻 貝
- コシダカガンガラ、イボキサゴ、サザエ、スガイ、オオヘビガイ、カワニナ、ヘナタリ、イボウミニナ 、ホソウミニナ、ツメタガイ、ヤツシロガイ、シドロ、アカニシ、ハナムシロ、ムシロガイ。
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- 二枚貝
- アカガイ、ハイガイ、ヒバリガイ、イタヤガイ、ハナイタヤ、アズマニシキ、チリボタン、キソチャク
ガイ、イタボガキ、マガキ、イワガキ、イセシラガイ、キクザル、トリガイ、キヌザル、オキシジミ、ア
サリ、アケガイ、イヨスダレ、スダレガイ、ハマグリ、カガミガイ、ウチムラサキ、シラオガイ、オニ
アサリ、ミルクイ、ムラサキガイ、シラトリモドキ、ヒメシラトリガイ、オオノガイ。
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