神戸の自然シリーズ12 神戸の地層を読む1
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3.研究学園都市の建設と地層

 研究学園都市 工事の全景 (昭和58年2月)

 地下鉄名谷駅(みょうだに)の西には、昭和60年に開催されるユニバーシアード大会にそなえて、各種の運動競技施設が急ピッチで建設されています。地下鉄の延伸工事も、この工事区を通りぬけて西へ伸び、西神工業団地と結ぶ新ルートが着々と進んでいます。太山寺から南に、新多聞(しんたもん)団地から北へ、さきの地下鉄ルートが西へ、この三者が交わる伊川谷町小寺地区を中心にこの本の舞台になる研究学園都市が建設されています。昭和61年には、ここに神戸市外国語大学や市立工業専門学校が移転するときいています。

 面積276ヘクタールの敷地は、かつてコナラを中心とする二次林の丘陵地であり、水利の便が悪いために、都市近郊の恵まれた場所でありながら、効率的な土地利用はなされていませんでした。丘陵をつくっている地層についても高塚(たかつか)山近くに貝化石の地層のあることが知られている程度で、本格的な調査はすすんでいませんでした。


研究学園都市の工事風景


 私たちは、垂水区から西区にかけて自然の残る田園地帯から、小中学生の理科指導に役立つ資料を得たいと思い、昭和53年頃から機会をみつけては歩いていました。しかし広大な面積の割りには、地層が直接出ているところが少なく、能率はあがりませんでした。ところが研究学園都市の建設工事がはじまり、地層があらわれるようになると、急速に情報が増えてきました。具体的な内容は、この本の中味そのものですが、開発の進行は新しい情報を提供してくれるものの、その反面、短時日のうちにその情報源であった地層や化石は消滅してしまいます。

 私たちは、この失われていく貴重な過去の自然界のようすを記録している証拠を、小、中学生や多くの市民に知ってもらおうとこの本の発行を計画しました。一般に地質学的な研究は、住宅の地盤や道路建設など、市民生活と密着している割りには知られていません。その原因のひとつに地質学で使う専門用語が一般向でない点があげられます。私たちは、このようなことを避けるために、できるだけ専門用語を使わないで、ごく普通の市民の眼で、目の前にある地層や化石をどうみるかという点を重視して、この本を書いてみました。


位置図(国土地理院2.5万分の1「前開」「須磨」を縮小)



・研究学園都市の四つの地層

 これから紹介する研究学園都市の敷地には、どんな地層があるのでしょうか。粘土層とか砂の層といった分け方ではなく、地層ができた時期で分けると四つになります。古い地層から、新しい地層の順に簡単に説明します。
 

1.白川層

 地下鉄名谷駅の付近一帯の地盤をつくっている白っぼい地層で、ユニバーシアード神戸大会の主会場になる総合運動場のまわりにかけて、広くひろがっている地層です。白く硬いギョウカイ(凝灰)岩が多く、泥岩砂岩もあります。今から千数百万年もの大昔に湖の底に積もってできた地層です。白いのは、手で持ってみると軽いのでわかりますが、それは火山灰がもとになってできた岩です。細かくみると白い火山灰の中には、ときどき爪先きぐらいの大きさの軽石(浮石)が見つかります。火山が噴火したとき飛ばされて直接湖面に降ったり地面に積もったものが湖に運びこまれたりしてできました。白いギョウカイ岩の中には、見事に保存された化石が入っています。
 細かな火山灰が、短時間のうちに積もりましたから、木の葉などは全然傷められないで、しつかり包みこまれたわけです。この付近は地質学上は「白川の植物化石産地」として大変有名なところで、地層は神戸層群とよばれています。


神戸層群(下部)と大阪層群(上部:れき層)


2.小寺(こでら)層
                                  
 3枚の青粘土層と砂と小石(礫(れき))の層からできている地層で、さきのアカシ象は、この中の青粘土層から発見されたのです。今から100万年ぐらい前に山麓沿いの湖にたい積してできた地層です。研究学園都市の敷地の大部分は、この地層です。 の実などの植物化石も多く見つかりますが、何よりもアカシ象や鹿などの大型化石の見つかる楽しみの大きい地層です。
      
3.高塚山(たかつかやま)層

 今から50万年ばかり前に、ここへ海が入ってきました。そのときにできた地層で、カキの化石をはじめ、多くの貝化石をもっています。このほかサンゴの化石や、サメの歯などの変りものの面白い化石の見つかる地層です。新多聞団地から研究学園都市へ向う峠の手前によく現われています。
      
4.学が丘(まなびがおか)層

 学が丘の団地が建ち並ぶ丘の表層をつくっている、牛肉のロースを思わせるような赤茶けた砂とれきの薄い地層です。ほとんど傾かない20万年前の海岸の地層で、れきは指先大のものばかりで、よく粒がそろっています。厚さは数メートルで、研究学園都市の南のへりにあたる丘の表面をつくつています。海というより浜辺の地層といえるぐらい海岸の浅いところにたい積したものです。化石はほとんど知られていませんが、それだけに見つかると大変重要な意味をもつことになります。約20万年前にできた地層で、高位段丘ともいわれます。


a 沖積層 3大阪層群上部 Kai 神戸層群
Tm 中位段丘 2大阪層群中部 Ksu
Th 高位段丘 1大阪層群下部 Ksi

調査地域付近の地質図(藤田 笠間 1983)
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