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1.アカシ象の地層は湖にできた
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この崖は「学園都市駅」の予定地にあり、2ヶ月後にはけずりとられた。

「駅の崖」と名づ1ナた露頭のスケッチ |
私たちは、昭和56年10月の日曜と休日を利用して学園都市の地層を集中的に調査することにしました。この日調査に参加したのは6名。神戸の自然を調べて理科教育に生かしていこうという目的でつくられた 「神戸の自然研究グループ」 のメンバーです。
この集中調査の目的は、アカシ象の化石を発見した地層についてもっとくわしく調べておこうということでした。化石が発見されたのは青灰色の粘土ですが、この粘土を中心にその前後の地層について今のうちに調べておかないと工事の進行とともに地層は消え失せてしまうからです。
■「駅の崖」の観察
現在ではすでにありませんが、地下鉄の「学園都市駅」のできる予定地のあたりに30mほどの高さの崖がありました。「駅の崖」と呼んでいるそそり立つような大きな崖でした。6名はまずこの崖にあらわれた地層のくわしいスケッチと柱状図を作ることに挑戦しました。
地層のスケッチは、普通にいう風景画のスケッチとはかなり違ったものです。どんなふうにするのでしょうか。
まず一番始めに地層の厚さを測るために崖の頂上まで登ってそこから巻尺をおろします。崖の一番下をゼロにあわせて、今度は下から一歩一歩登っていきます。はじめに崖の傾きをクリノメーターで測定します。崖の傾きは50度。屋内の非常に急な階段が45度、ベテランの登山家でもザイルを使って登る傾斜ですから相当危険な調査です。実際傾斜が45度を越す場合は、見た目には「直立する崖」と言ってもいいような感じを受けるものです。ブルドーザーで削り取る時にできた段が1m間隔ぐらいでありますからそれを一つ一つ登っていくことになります。
記録係は、あらかじめ1mを1cmと決め崖の傾斜と同じ線を方眼紙に書いておきます。崖の斜面の長さは38mですから38cmの斜めの線を書いておくわけです。

「ゼロmから4mまで砂れき。」
「こぶし大のれきが多いけど一番大きいのはどれぐらいだろう?」「25cmのれきがあるよ。」
「れきの種類は?」
「チャートと流紋岩ばかりみたいだ。ほぼ同しぐらいの量かな」
「流紋岩の方が多いと思うよ」
「円れきと亜円れきだ。砂の部分が少なくてれきの密度が大きい。」
「上の方が小さくなっているようだな。」
「4mのところに酸化鉄が層をなしている。厚さは5〜10cm。」
「走向、傾斜は測れないか。」
「NS。20度W。」
「5m20cmまで中粒の砂だ。」
「茶褐色で、固結していない。」
「サラサラしていて海岸の砂みたいにみえるけど」
「その上は粘土。これは湖成粘土だな。」
「アカシ象の入っていたのはこれだ。」
「何mまで粘土かな」
「15mまで粘土でその上は、ちょっと違う粘土だ。」
「8m付近は、砂質になっている。7m50から9m20までは砂質粘土だ。」
「火山灰があるよ。11m50のところに。」
「こっちには見つからないけど…」
「よくさがしてみて」
ざっとこんな調子で地層を読みながら登っていきます。登ったり降りたりをくりかえし、左右の変化を追いかけて崖を横に移動したりするものですから、ざっと1時間半もかかって崖の頂上にたどりつきました。
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「駅の崖」の地層の記録(柱状図) |
■地層の続き方を考える
見はらしのよい崖の頂上からまわりを見まわします。南の方に現在ブルドーザーが入って切り取っている山があり、そこに粘土層が出ています。その西方にも粘土層が見えます。
「この崖の粘土とあれは同じものなのなんだろうか。こちらの方がずいぶん厚いようだけど。」
「それに、標高もこちらよりかなり高いようだし、別のものじゃないかな。」
「午後からはあっちに行ってみることにしよう。」
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駅の崖の北の崖の地層
近くにあるのにずいぶんようすがちがう。
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この崖の200m東の方にも、かなり大きな崖があります。今私たちが立っている崖と同しくらいの高さの崖ですが、この崖で見るような粘土や砂がありません。全体がほとんど砂れきからできています。こちらの崖の粘土の傾きを考えてのばしてみるとむこうの崖にぶつかるはずなのにそれがありません。
「この粘土は、きっと東へ行くと薄くなって消えてしまうんだよ。」
「東の方ほど、傾斜が急になっているに違いない。するとあの砂れき層の上に続くことになるのとちがうかな。」
そんな論議をし、写真を撮った後、崖をおります。崖は登る時よりおりる時の方がはるかにむつかしくこわいものです。
下にもどると今度は、離れた位置から崖の地層を見なおして全体のスケッチを書きます。スケッチは、地層をつくっている物質の違い(粘土、砂、れき、火山灰)と、その境い目の線に注目して書きます。
崖を登りながら巻尺で測った地層の厚さは本当の厚さよりずっと厚くなっています。地層の傾きと崖の傾きを考慮して作図して補正した地層の厚さで柱状図を作ります。
この柱状図で「淡青灰色粘土」と書いてあるのは、湖にできた粘土でアカシ象を発見した粘土と同じ粘土です。アカシ象の発見地点はこの崖の北西150mのところにあり直接つながっていくようすが観察できます。
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