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2−1.見え隠れする粘土層を追う
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地層の対比を試みる |
■メタセコイアの粘土
アカシ象の湖成粘土の上に比較的黒っぼい粘土があります。この粘土からはメタセコイアの球果の化石がたくさん見つかりました。これはあとからまちがいであるとわかるのですが、この時私たちは海成粘土に似た暗青灰色にひかれ、「この粘土は海成粘土のようだ」、「この下の湖成粘土とは不整合の関係である。」と考え、そのように記録しています。
ところでメタセコイアの球果というのは大きさが1cmぐらいで松かさを小型にしたようなものです。球形はしておらず平べったく押しっぶされたようになっています。このメタセコイアの球果が見つかるというのは、とても大切な意味があるのです。
大阪平野では、このあたりと同じ時代(第四紀)の地層が広がっておりそれがかなりくわしく調べられています。その研究によるとメタセコイアの化石は、Ma3と名づけられた海成粘土よりも古い地層からしか発見されないことがわかっています。Ma3の時代というと大ざっぱに言えば今から約80万年前ということもわかっています。メタセコイアはこの80万年前に日本では滅びてしまったのです。
メタセコイアの化石を含んでいるということは、この地層は、80万年前=Ma3より古い時代の地層だということがわかるのです。このようにその化石から地層の時代が判断できる時、その化石を「示準化石」 と呼んでいます。
■地層を対比する
私たちはその後、粘土層が見つかるたびにメタセコイアの化石があるかどうかをしつこくさがしてきました。学園都市工事現場の中では、ここ以外に4ケ所で見つけることができ、これが決め手になってひと続きの同じ粘土層であると判断できました。
ここ以外では、小束山、学ケ丘、朝霧、野々池などでメタセコイアの化石が見つかっています。メタセコイアが含まれるからと言っても、それだけで一枚のつながった粘土層だと断定できるわけではありません。Ma3よりも古いという点で共通していると言えるだけです。しかし上下の地層との関係、地層の傾きや厚さ、そして粘土の特徴などから考えておそらく1枚のつながった粘土層が、学園都市から垂水、朝霧、明石に広がっていると考えています。
このように離れた場所の地層がひとつながりのものであるかどうか、あるいは同じ時代のものであるかどうか、どちらが古いものでどちらが新しいものであるかを調べることを「地層を対比する」と言います。一枚一枚の地層を対比して地層の上下関係、整合、不整合関係、地層の変化やそこに含まれる化石などを総合的にまとめることを「層序を組む」と言います。
以下「駅の崖」と「若葉の大露頭」の地層の情報を手がかりに、どのように地層を対比し、層序を組み立てていったのかを述べていくことにします。
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■第一湖成粘土と第二湖成粘土
地層を対比していく時にわかりやすいのは粘土層です。砂層や砂れき層では変化も激しく、これと言った特徴がはっきりしません。それに比べ粘土層はふつうは広い範囲に連続して広がっている場合が多いのです。その上、粘土の中には化石が含まれていることが多くこの化石が地層の対比に大いに役立つのです。
学園都市の西の端には、農地に水を供給する目的で小寺大池という池が作られています。もともとあった大門(だいもん)池と蓮(はす)池という昔からのため池を作りなおしたものです。小寺大池の周辺に湖成粘土が出ていました。それをくわしく調べていくうちに湖成粘土は1枚ではなく2枚あることがわかってきました。そこでその下の方の粘土を「第一湖成粘土」、上の方のものを「第二湖成粘土」と名づけました。第二湖成粘土のすぐ上には黒ぼい粘土が重なっておりメタセコイアの球果の化石が見つかりました。駅の崖と同じ関係です。駅の崖の粘土の下限は標高103mのところにあって、厚さは7mでした。小寺大池でこの粘土層は、74mの標高のところにあり厚さは10mです。ということはこの第二湖成粘土は東方では高い位置にあり、西に行く程だんだん深く入りこんでいくように伸びており地層の厚さはだんだん厚くなっていることになります。
その後、駅の崖の地面より下にも第一湖成粘土があることがわかりましたが同じような傾向になっていました。
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湖成粘土の中に含まれるラン鉄鉱
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馬谷(うまたに)の海成粘土
さて小寺大池の南方に馬谷という所がありここにも粘土が出ています。この粘土は一見して明らかに海にできた粘土であるとわかる特徴を持っています。それは一体どんな特徴なのでしょうか。
第一は粘土の色です。この粘土は暗灰色で湖成粘土の緑っぼい色とは明らかに異なります。
第二は、地層が削られたばかりの新鮮な時にはわからないのですが、古い断面では、イオウのふき出しによって表面が黄褐色になっています。これは海成粘土にきわだった特徴であることはすでに述べたとおりです。
第三はサンドパイプが各所に見られることです。
第四に決定的なことは、海にすんでいる二枚貝(ミゾガイ)が見つかったことです。
私たちはこの海成粘土を「馬谷海成粘土」と名づけました。この馬谷海成粘土は、標高88mよりも上にあり、第二湖成粘土の上にあたると考えられます。第二湖成粘土の上には例のメタセコイヤの粘土があり、それはどちらも黒ぼい色ですから、この二つの粘土は同じものでしょうか。そう思い私たちは馬谷粘土の中にメタセコイアの化石がないかと必死でさがしました。ところがいくらさがしても見つかりません。
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