神戸の自然シリーズ12 神戸の地層を読む1
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−2.見え隠れする粘土層を追う

■馬谷粘土とメタセコイア粘土は違う
 そのかわりもっと小型の木の実の化石をたくさん見つけました。機会があって植物の実や種の化石を専門に研究しておられる粉川昭平教授・辻誠一郎さん・南木睦彦さんをここに案内したことがあります。粉川教授らにこの木の実はブナの実であると教えていただきました。粉川教授らはこの粘土層から三十分ほどの間に次々と木の実の化石を採取されました。カヤ、モミ、カシ、クマノミズキ、ケヤキ、コウゾ、カエデやサクラの仲間など約20種。

 その道のプロというのはさすがにちがうものです。同じ地層を二つの目で見ているのだから同じように見つかってもいいはずなのに私たちにはこんなにたくさん見つかりません。

 この化石からどんなことがわかるでしょうか。ブナというのは、寒冷な気候のところに生育するものですが、ここで見つかったのは、「台湾ブナ」と言う温暖な地域のものだそうです。そのほかのものもほとんど現在の神戸にもあるものか、もう少し暖かい所に生育しているものばかりです。

 これらの植物化石の組合せから推定できる馬谷粘土を堆積した海のまわりの環境は、現在の神戸よりやや温かい気候(温帯南部)であったということです。

 一方メタセコイアの粘土はどこをどんなにさがしてもイオウのふき出しやサンドパイプはありません。たまたま見つからないだけなのでしょうかそれとも全く違う地層なのでしょうか。


馬谷粘土層の観察メモ


 それかはっきりとわかったのは小寺大池の北で第二湖成粘土の上が広く削り取られてメタセコイア粘土が平面的に地表に広くあらわれた時です。

 第二湖成粘土の上のメタセコイア粘土は、どこにでも広がっているものではなく部分的にレンズ状に、とぎれとぎれにあるのです。この粘土の中には雑然と木材や木片、木の根、れきなどが混っており、湖成粘土を川の流れが削りこんでそこにたまったもののように見えます。黒ぼい色をしているため海成粘土のように思えたのですが、木材などが大量に含まれていると湖成粘土もこんな色になるのだということがわかりました。

 とにかくメタセコイア粘土と馬谷海成粘土は全く別ものであったのです。

地質柱状図(2) 柱状図の位置図
(国土地理院、2.5万分の1、「前開」「須磨」を縮小)


■高塚山・駅の崖・小寺大池・馬谷
 ということは駅の崖には、馬谷海成粘土にあたるものがないことになります。これはどう考えたらいいのでしょうか。

 一つの考えは、駅の崖の第二湖成粘土の上にある砂れき層が馬谷海成粘土と同じ時にできたものではないかという考えです。馬谷あたりは粘土を堆積するような海域であったが、それより東の駅の崖のあたりは、砂や砂れきを堆積するような環境にあったのではないだろうかということです。

 二つ目の考えは、駅の崖の上にはかつては馬谷粘土の続きがあったが、夜食によって削りとられてしまったという考えです。 もう一つの考えは、馬谷海成粘土を堆積した海は、駅の崖の地層ができた時代よりもずっと後になってできた海であってその時には駅の崖あたりまで海は入りこんでいなかったという考えです。

 ところで私たちは、前の章で述べた高塚山の大露頭の粘土層のことを思い出さないわけにはいきません。

 高塚山では、一番下に湖成粘土があり、それと不整合の関係で湖成−海成と変化する粘土層がありました。

 高塚山と学園都市は約1km余りしか離れていません。高塚山駅の崖・小寺大池・馬谷にあらわれた湖成と海成粘土のどれとどれとがつながっているのか、どんな関係になっているのか、私たちはいろいろな場合を考えてみました。見た感しでは同じようにも見えるし全く違うようにもみえる、簡単なようで実にむつかしい問題でした。いずれにしてもこの段階では決定的な決めてはありません。様々な面から調査しもっとデータを集めなければならなかったのです。

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