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3−1.火山灰を比較する
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完成した小寺大池 むこうにみえるのが馬谷 |
■地層対比の鍵・火山灰
高塚山の露頭で海成粘土の中にピンク色の火山灰の層があること、下位の湖成粘土の上にかなり厚い黄色の火山灰の層があることは注目に値することでした。火山灰は、粘土や砂れきの地層と違ってある一時期に、その場の環境や条件の違いにかかわらずどこにでも降り積るものだからです。火山灰は地層を対比する時にしばしば決め手=鍵になることがあります。このような地層を「鍵層」(キイ・ベッド)と呼んでいます。
大阪平野や千里丘陵の第四紀層(大阪層群)の研究で地層の対比をほぼ完全にしたのはその中にはさまれる火山灰による対比が大きな役割を果しました。大阪平野に比べて西神戸、播磨平野の第四紀の地層の研究が遅れていたのは火山灰があまり見つかっていなかったのが一つの理由になっています。
■火山灰に名前をつける
この地域での火山灰には、いったいどんな特徴があるのでしょうか。大阪地方と比べるとどうなのでしょうか。駅の崖の第二湖成粘土の中にも火山灰がありました。私たちは、高塚山層の2枚の火山灰も含めてこれらをいちいち「高塚山の海成粘土中にはさまれるピンク色の火山灰」とか「湖成粘土の上にある黄色の火山灰」とか呼ぶのがめんどうなので仲間うちだけの合言葉のような呼び方を決めることにしました。一番始めにその火山灰を見つけた人間の名をとって「ハシモトタフ」「フジタタフ」「ヤギタフ」がその名です。タフ(tuff)とは火山灰のことで、「ハシモト」は著者の一人觜本のこと、「フジタ」は前にも出てきた大阪市大の藤田和夫教授、「ヤギ」は東北大学の大学院生八木浩司さんのことです。野外で命名した仮りの名で、いわばフィールドネームです。私たちのフィールドネームは、大阪地方のどの火山灰と同じかがわかるまでの仮の呼び方です。
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火山灰にヤギタフというフィ
ールドネームをつけた。 |
粘土層の中にはさまれている火山灰層 |
■火山灰の特徴
まずそれぞれの火山灰はどんな特徴があるのか野外で観察したことをまとめておきます。
ヤギタフ: 水にぬれていると灰白色、監くと黄灰色。学園都市の第二湖成粘土の中にはさまれています。地層の厚さは1m以上になる所もありますが10cm程度の所もあります。削り取られて部分的にとぎれている個所も見られます。火山灰の粒の大きさは比較的大きく肉眼でも火山ガラスが確認できます。
フジタタフ: 色はぬれていると灰黄色、乾くと灰白色になります。粒の大きさはヤギタフよりも細かく地層の厚さは70cmから1mです。高塚山の下の湖成粘土のすぐ上にあり、不整合によって削り取られています。
ハシモトタフ: 色はぬれていると紫色がかったピンク色で乾くとピンクっぼい白色になります。非常に細かい粒の火山灰です。高塚山の海成粘土の間にはさまれており最大20cmほどの厚さですが、かなりかき乱され固まりのようになったり、とぎれている部分もあります。
肉眼で見ただけでもこの三つの火山灰は明らかに異なる火山灰であり特徴がはっきりしています。
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■火山灰の分析
肉眼で見た感じだけでなくもっとくわしく火山灰を分析してみる必要があります。火山灰は、火山ガラスという透明なガラスの粒と、セキェイ・チョウセキ・キセキ・カクセンセキなどの鉱物の結晶が集まったものです。その火山ガラスの形や屈折率はそれぞれの火山灰によって異なる特徴を示します。またどんな鉱物がどんな割合で含まれているかということもそれぞれ特徴があります。
このことを利用して火山灰の分析をして同じ火山灰であるかどうかを判定するわけです。
私たちは、この火山灰を群馬大学の新井房夫教授に分析していただくことにしました。新井教授の測定結果は62ページのとおりです。
小寺大池の北と、駅の崖の2ケ所のヤギタフを比べてみると火山ガラスの屈折率がぴたりと一致しているし、形状も同じです。ただ一方は「きれいなガラスに富むガラス質火山灰」であるのに一方は「粘土化が進んでいるためにガラスが少ない」となっています。粘土化というのは、ガラスや鉱物が風化して粘土に変わってしまうことです。同じ火山灰でもなぜこんな違いが出てくるのでしょうか。
フジタタフはさまざまな点でヤギタフとちがっています。火山ガラスの形状、屈折率ははっきりちがっています。ハシモトタフは火山ガラスの形状や屈折率はフジタタフと似ていますが、ハシモトタフはガラスが少なく有色鉱物の中でもカクセン石が特に多いという点はまるで違う特徴です。
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三つの火山灰のサンプル 左から右へ、ハシモトタフ、ヤギタフ、フジタタフ |
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