神戸の自然シリーズ12 神戸の地層を読む1
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−2.六甲変動と断層の活動

地下鉄工事に伴ってあらわれた高塚山断層(とう曲)の全望

断層前後の地層のスケッチ


■高塚山断層はいつ活動したか
 次にこの断層が動いた時期はいつなのでしょうか。大阪層群の砂れき層が切られているのですから少なくとも砂れき層堆積より後に動いたことは確かです。断層より東側では西側より砂れき層は薄いという事実があります。これはすでに削り取られたためにそうなったのかもしれませんが、もともとこの砂れき層ができる時に東側は西側より高い地形があったと考えられないこともありません。この高い地形は断層によって作られたものであると考えれば、高塚山断層は、大阪層群の砂れき層の堆積前から動き出し、砂れき層の堆積後も動き、最近まで動いていたと考えられそうです。最近まで動いていたと言ってもいつ頃のことでしょうか。また今後も動く可能性はあるでしょうか。この断層が切っている地層は大阪層群の地層で百万年前ごろの地層です。現在のところこれよりももっと新しい地層が切られている場所は見つかっていませんが、その可能性はないとは言えません。この高塚山断層のように第四紀の地層を切っており第四紀になってから動いたと考えられる断層は、特に活断層と呼ばれています。活断層とは、生きている断層という意味で今後も活動する可能性があるという意味をこめてつけられた名前です。


とう曲に伴う断層のできかたの順序



 断層の動きというのは、毎年毎年ちょっとずつずれていくという動きではなく地下にためられたひずみのエネルギーが限界に達した時、断層が活動すると言われています。この断層の活動=エネルギーの解放が地震であるというのが、最近の地震学の研究成果です。高塚山断層も、何千年か何万年に一回地震をおこしながら活動してきた断層で、ここにあらわれた断層露頭は、「地震の化石」とも言えるものなのです。

 ところでこの高塚山断層の活動はどんな意味を持っているのでしょう。この章の初めで砂れき層が急傾斜しているのは六甲山のおいたちと深いかかわりがあると書きました。実はこの高塚山断層の活動こそ六甲山を作ったとも言えるのです。


断層の変異を求める作図


■高塚山フレクチヤー
 ここまでは現地で高塚山断層を観察したことを中心に説明してきました。現地を知らない方には、これまでの説明は難しい内容だと感じられたと思います。そこで少し表現をかえた説明を試みます。

 この研究学園都市は遠くから見ると、六甲山の西の麓にひろがる丘の中にあります。そして、地形はこの付近から一段と高くなり、六甲に近い側は起伏のある丘陵に、播磨平野に続く西側はゆるい傾斜の低地です。

 この地形の項目の地下には、基盤皿の花こう岩も東が高く、西は低くなった食い違いがあります。その食い違い(断層)ができたときの影響で、上にある地層にもたわみやずれが生しました。これが高塚山断層です。正確には、こんな理由で地層が変形するのを撓曲(とうきょく)フレクチヤー)といいます。地質図によっては、高塚山断層は、高塚山撓曲とか、とか、高塚山フレクチヤーと記入されている場合があります。


六甲山地の断層(藤田・笠間 1976より抜すい)


 神戸付近の主な断層をまとめてみると上の図のとおりです。大きく見れば、神戸の市街地と六甲山地とをわける五助橋断層−諏訪山断層−須磨断層と北側の有馬と高槻を結ぶ六甲断層帯、そして西側の高塚山断層で囲まれた地帯が六甲山地の高まりだとわかります。

 六甲山地を東西方向に切った断面でみると、そのようすがよくわかると思います。全体の断層をながめると高塚山断層は南北方向で、他の断層と異なる特異な断層のように思えます。しかしこれらの断層がなぜできたのかという点でみれば、他の断層も高塚山断層も、東西方向から圧力で押されたためにできたと考えられています。この東西方向の圧力は、近畿地方のほぼ全域の地盤に加わった圧力です。このために近畿地方には、鈴鹿山地、生駒山地、比良山地、などの山地ができその山地の周辺が断層でふちどられたのだと考えられているのです。

 その山地と山地の間には琵琶湖や、奈良盆地、大阪平野、大阪湾などの低い土地があるわけです。その一つの山地が六甲山地であり、その周辺をふちどる断層が高塚山断層なのです。大阪層群の広がる播磨平野は、近畿で最も西の端の低地であるというわけです。このように六甲山地をつくりあげた地殻変動は、とくに「六甲変動」と呼ばれています。さらに六甲変動は、六甲山地をつくった断層の活動だけでなく西日本におこった第四紀の同じような変動全体をさす用語として広く使われています。

 このようなわけで、高塚山断層は、六甲を生んだ活断層として重要なものなのです。


播磨盆地・六甲盆地・大阪盆地における断層による地形と層準の変位(藤田・笠間1971)

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