神戸の自然シリーズ12 神戸の地層を読む1
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あとがき

 私たちは、「神戸の自然シリーズ」のひとつに地層をとりあげたいという気持はずいぶん前から持っていました。

 「神戸にある地層を、いくつかのコースを選んで紹介し、地層観察に行ける案内書にしよう。」

 「神戸市西部の大阪層群を中心にいままでの研究成果をわかりやすくまとめてみよう。」

、など、いくつかの構想をめぐっていろんな議論をしました。しかしそれらは次々に消えていきました。それは次のような理由からでした。

 私たちの調査がなかなか進まなかったのです。日曜日や休日を使っての調査は、本文中にも述べているように、多くの人達と共同の調査や、「自然研究グループ」総動員の調査もありました。確かに1回の調査でいつも何かの成果がありました。ところがその数倍のわからない未解決の問題が出てくるのです。数年間かかって私たちは、「研究学園都市」から外に調査範囲を広げられませんでした。

 私たちは、この間何回か、小中学校の先生方に呼びかけて「地層の観察会」を持ちました。参加者の感想を開いてみると「おもしろそうに思ったけど、よくわからなかった。」という人が多いのです。これがもうひとつの理由です。

 私たちの日常的な感覚とは桁はずれた大きな時間のスケールの中で作られてきた地層なのですから、1回や2回の観察会でピンとこないのは当然のこととも思えます。

 何回も調査に参加しながら「よくわからない」といっていた自然研究グループの先生がある時、こんな発言をしました。

 「この頃、地学がおもしろくなってきた急にわかるようになったようだ。」話してみると、そのきっかけの第一は、数万年とか数十万年、数百万年という時間のスケールの感覚がつかめてきたことがあります。第二は、調査に参加し、地層に含まれているどんな事実であっても、必ずそれができた時代の自然の歴史を反映する記録であることに気づいてきたというのです。

 地球科学に縁のなかった方には、この本は、回りくどい説明に終始する結論のない本に思えたのではないでしょうか。また多少なりとも経験のある方には、地層の年代や対比論が欠け、問題提起のないガイドブックだと思われたことでしょう。

 「神戸の地層を読む」というのは、少しキザなタイトルですが、私たちはこの本に次のような夢をたくしています。私たちの日常生活に大地の科学が登場するのは、地震とか、地辷り、山崩れなど突発的な災害のときぐらいです。いわば悪い面からの情報のほうが多いといえます。そこには毎日見ている住居の地面や道ばたの小さな崖に出ている地層についての情報は何一つありません。

 私たちの住んでいる土地が、どんな自然の歴史をへてできたのか、そこにはどんな自然の記録や事実が保存されているか。こんな見方で自然と接することができればすばらしいことだと思います。

 したがって、古地磁気にしても、微化石も、フィッション・トラック法などもすべて研究の過程は省略して、おおよその結果のみを紹介しました。私たちはその後も西神戸の地層や地形の研究の研究をすすめています。近い将来にこの本の第二部を作る予定ですが、それにはやや系統的に整理できている内容が盛りこめるようにしたいと考えています。

 この本をまとめるまでに、実に多くの方に御指導をいただいたり、便宜をはかっていただきました。本文中に、失礼とは存じましたが、引用文献のような形でそれぞれの場面にお名前をあげさせていただきました。御無礼をお許しください。とくに大阪市立大学の藤田和夫先生には、幾度となく個人指導といえるぐらい、地質構造に関する内容を現地で教えていただきました。また高井冬二先生にはアカシ象を研究された当時のことを話していただきました。私たちの研究グループの先生方には、夏休みにも、冬休みにも、まるで人海戦術のように研究学園都市に出動をお願いしました。昭和58年2月、凍てついた高塚山層の粘土から相次いでシオガマサンゴを発見したときの興奮と感激は忘れることはできません。

 また神戸市開発局研究学園都市建設事務所の方々には3年にわたる間、素人には危険な工事現場への立ち入りの許可をいただきました。

 共著者のひとり觜本にとってこの本は、昭和55〜57年の神戸市立教育研究所の研究テーマ「神戸市の自然を生かした理料教材研究」の研究員としての研究報告書であり、昭和53年に交付をうけた文部省科学研究費助成補助金奨励研究「神戸市西部の大阪層群の基礎調査とその教材化」の研究報告でもあります。

 さらに神戸中学校の堀本校長をはじめ諸先生方、神戸市立教育研究所の足立所長および所員の皆様には、いろいろ御援助をいただきました。ここに深く感謝いたします。

 少し長いあとがきになりました。



追記

 研究学園都市の火山灰・ヤギタフのフィッション・トラック法による年代が1.9±0.4My.(190万年プラス・マイナス40万年前)と測定されました。アカシ象の臼歯は、この火山灰層の直下で発見されましたから、約200万年前の古さの化石といえます。107ページの2、百万年前の湖とアカシ象の見出しは、二百万年前……になります。


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