神戸の自然シリーズ12 神戸の地層を読む1
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2.100万年前の湖とアカシ象
 アカシ象が発見された小寺層は、何万年ぐらい前の地層でしょうか。アカシ象の化石の約1m上にあるヤギタフを試料に、フィッション・トラック法で年代測定を依頼中です。たぶんこの本ができあがる頃には、待望の年代が出ているかも知れません。この見出しに百万年前としたのは、あくまで予想の年代です。メタセコイアが産出すること、落葉広葉樹が多いこと、琵琶湖西岸の約80万年前の地層からアカシ象が発見されていることなどを手がかりに、約100万年前と予想してみました。

 メタセコイアは、生ける化石として有名ですが、その事情をかいつまんで紹介しますと、日本の生んだすぐれた植物化石の研究家だった故三木茂博士が、メタセコイアは第三紀に東アジアにひろく分布していたが、第四紀に入るとだんだん分布が狭くなり、約80万年前には絶滅し、地球上から姿を消したと発表しました。ところが1944年に中国南部四川省の山地に僅かに生き残っているのが発見されました(15)。しかも、その性質が三木博士の予測したこととほとんど違わないこともわかり、一躍、世界中の科学者の話題となった木です。

 小寺層にはメタセコイアのほかにオオバタグルミ、ノグルミ、エゴノキ、コナンキンハゼ、シキシマハマナツメ、サンショウの類、ハイノキの類、ブナの類、コナラ(落葉型)亜属、ミズキの類などの実の化石が出ますし、花粉分析では、このほかにアカガン亜属、モミ、マツ、ツガ、スギ、シナノキなども知られています。全体としてみると落葉広葉樹の中に常緑広葉樹も混生している森林が想定されます。

 動物化石としてはアカシ象のほかに、小寺層の延長にあたると思われる明石市西八木海岸の青粘土層から鹿の骨(シカマシフゾウ、シフゾウ、ニホンムカシジカなど)が発見されています。また明石海峡底には、地層から洗い出されたアカシ象の化石が多く引揚げられているし、淡路島の地層からも歯や象牙の化石が採集されています。

 こうしてみますと、当時の西神戸一帯には、秋から冬にかけて黄葉する落葉林に常緑樹が混生する森があり、明石、淡路島にかけてひろがる広い湖の周辺には草原があり、アカシ象やシフゾウなどの絶滅したけもの達がすんでいたと想像されます。

 小寺層については、フィッション・トラック法による放射年代の測定値がでたときに、もっと詳しく当時の自然環境を考えてみたいと思っています。

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