神戸の自然シリーズ17 神戸の地層を読む2
  前ページへ 目次へ 次ページへ

2.浅い内湾だった高塚山の海


 50万年前の貝化石を掘り出して、学習する小学生たち(1986年、西脇小)


 高塚山層にはたくさんの貝化石をふくむ層があり、現在でも採取することができます。最近でも多くの小学生や中学生がここに足をはこんで化石をとったり、学習している姿をみかけることがあります。

 この貝化石の層の研究は、貝の研究者である安藤保二さんらが1951年に「高塚山貝層」と名づけて21種顆の貝化石を報告したのがはじめです。

 私たちもこの貝層からたくさんの貝化石を採取し、その鑑定を松島義章さん(神奈川県立博物館)におねがいしました。

 その結果、27種類の貝があることがわかりました。その貝化石の写真とリストは下に示したとおりですが、ムカシチヒロとハリマニシキのほかは現在でも生きている貝です。これらの貝化石からどんなことがわかるのでしょうか。

 採取した貝化石が、どのような環境にすむものかを調べて、まとめると次のようになります。

 第一は海水でも塩分のうすい場所(汽水域)、すなわち海水が川の水によってうすめられるような所にすむものです。ヤマトシジミ、マガキ、コガタヌマコダキガイなどです。

 第二は海岸で潮の満ち干きで海面下になったり干上がったりする場所(潮間帯(ちょうかんたい))の砂地にすむものです。シオフキガイ、カガミガイなどです。

 第三は浅い内湾の砂や泥の底にすむもので、ミミエガイ、マルミミエガイ、ウラカガミ、トリガイ、ツキガイモドキ、スダレガイ、ナミガイなどです。

 第四は浅い海で沿岸といえるようなところにすむもので、イタヤガイ、ムカシチヒロ、ハリマニシキなどです。

 このようにすむ場所がことなるさまざまな貝が混ざりあっているのが高塚山貝層の特徴です。これはいったいどうしてでしょうか。

 貝化石がそこにあるからといっても、その貝がそこにすんでいたとは限りません。ほかの場所にすんでいて死んだ貝がらが潮流や波によって運ばれることがあるからです。

 これらの貝化石のうちこの場所にすんでいたと考えられるのは、ナミガイやウラカガミガイです。これらは左右の殻がそろってすんでいた状態のままで化石になっているものがみつかるからです。

 とすると、この貝層のたまった場所は探さが数10mから10m以内(潮下帯(ちょうかたい))の内湾の泥底であったと推定できます。そこより陸に近い干潟(ひがた)で川の流れこむような場所にすんでいたマガキやヤマトシジミなどが運ばれてきます。もっと深い場所にすんでいたムカシチヒロ、ハリマニシキの殻(から)もあつまってきたと考えられます。

高塚山貝層から産出した貝化石

1.ヤマトシジミ 5.ハリマニシキ 9.ツメタガイの1種
2.スダレガイの仲間 6.ヤカドツノガイ 10.ムカシチヒロ
3.ツキガイモドキ 7.イタヤガイ 11.ネコノアシガキ
4.イタボガキ 8.貝がらについたサンゴ 12.マガキ


表10 高塚山貝層から産出した貝化石のリスト


貝化石だけではなく、さまざまな化石がみつかる

ウラカガミガイは、左右の殻がそろって産出し、現地性の化石である

前ページへ 目次へ 次ページへ