神戸の自然シリーズ17 神戸の地層を読む2
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6.気温の上昇とともにやってきた海進

花粉とケイソウの試料を採取する

 ケイソウは、湖から海への変化を知る手がかりとなる


 高塚山粘土層は貝化石などのふくまれている高塚山貝層だけでなく、その下位に淡水成の粘土層があります。高塚山の海ははじめは湖であって、やがて海水が混じってきて海になったと考えられます。その経過を詳しく知るために、ケイソウの化石を調べてもらったのは、佐藤裕司さん(兵庫県企業庁)です。

 ケイソウと花粉を調べるための試料は粘土層の一番厚いところで下から順番に19個採取しました。

 佐藤さんが調べた結果はつぎのようにまとめることができます。

 高塚山粘土層のケイソウ化石は図16のように見事に上下二帯に分かれます。試料1から10まではユウノチア属やメロシラ属などの淡水にすむ種が圧倒的に多く、海にすむケイソウは全く出てきません。これに対して11から19にわたってキクロテラ属やタラシオスラ属など海のケイソウが急増しますが、淡水のものもわずかであるが認められます。とくに試料13・14・15の層準には海水種が多く、なかにはタラシオスラ・オエストルピィのような黒潮域にすむ暖海種が出てくるので、この層準のときが高塚山海進が最高に達したときだと考えられます。

 このようにケイソウの研究からはこの高塚山の海が湖から始まり、海が進入してきたこと、さらにその海が温暖な海であったことが証明されたわけです。



 では、ケイソウと同じ試料で行った花粉化石の分析からは、どんなことがわかったのでしょうか。いままで述べてきた化石はこの粘土層をためた湖や海についての情報を提供してくれたのですが、花粉はそのまわりの森林のようすを知らせてくれることになります。

 高塚山粘土層の花粉化石群からは、当時の森林や気候について次のような興味あることがわかりました。花粉化石群は上下二帯に区分されます。下の方はブナ属が圧倒的に多く、当時はブナの純林が西神戸一帯に繁茂していたといいたいぐらい高率で産出しました。上の花粉化石帯はブナに代ってマツ属、モミ属、ツガ属、コウヤマキ、トウヒ属、スギなどの針葉樹とアカガシ亜属やシイなどの常緑の広葉樹が急激に増加します。この二つの花粉化石帯から当時の森林を推定すると、温帯北部(冷温帯)的なブナ林が気候の温暖化につれ、モミ、ツガ、マツ、コウヤマキなどの温帯針葉樹林と現在の照葉樹林に近い組合せの温帯南部(暖温帯)的な森との針広混生林のできたことが明瞭に示されています。

 すなわち、湖の時代にはこのあたりはブナを中心としてケヤキ・ニレ、ツガなどの森林があり、かなり寒冷な気候であったと堆定できるのです。ところがその後、気候は急激に温暖化して森林はアカガシ亜属の仲間やシイなどの常緑の広葉樹とコウヤマキ、スギなどの温帯性の針葉樹に移り変わったのです。その森林の変化と、湖から海への変化はほとんど同じ時に起こっています。



花粉はまわりのようすを語ってくれる



図16 花粉とケイソウの分析の結果 


図17 高塚山粘土層の花粉化石の出現傾向 


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