神戸の自然シリーズ17 神戸の地層を読む2
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2.播磨平野に進入したはじめての海

舞子貝層と高塚山貝層のムカシチヒロを比軟する


 では、舞子貝層が高塚山粘土層よりも古いというのはどんな根拠によるものなのでしょうか。舞子貝層にはたくさんの種類の貝がふくまれています。その中でムカシチヒロは高塚山貝層にもふくまれているものです。

 東京大学の速水格さんは、この両層をふくめてこの仲間の進化についての研究を発表しています。それによると、両層のムカシチヒロの放射肋(ほうしゃろく)の数を比べると、舞子貝層のものは21〜23本のものが多いのに対して高塚山貝層のものは18〜20で少なく、現在も大阪湾に生きているアワジチヒロと舞子貝層のものとの中間的な形態であると述べています。(裏表紙参照

 すなわち、舞子貝層は高塚山貝層より古いと考えられるわけです。

 残念ながら、現在のところ川西粘土層と高塚粘土層の新旧関係を推定する情報はこれだけです。川西粘土層のなかに年代測定のできる火山灰か、年代決定に有効な化石がみつかるか、高塚山粘土層との関係がわかる露頭があらわれるか、今後期待されるところです。

 舞子貝層からはフジツボの化石も三種みつかっています。そのうちの1種は5万年〜50万年前の地層にしかふくまれていないという山口寿之さん(千葉大学)からの情報も舞子貝層・川西粘土層の年代を考えるうえで貴重なものでした。

 川西粘土層・舞子貝層が高塚山粘土層より古い海成の地層だということは、これが播磨平野の第四紀にはいってからの地層としては一番古い海でできた地層であるということです。

 大阪平野では、海成粘土層は14枚みつかっていて下からMa0、Ma1、.....、Ma13と名づけられています。そのうちMa0が大阪平野にはじめて海が進入してきてできた地層で120万年前、Ma13が現在の大阪湾の底にたまりつつある粘土層です。

 第四紀という時代は気温の寒冷化(氷期)と温暖化(間氷期)をしばしばくりかえしてきた時代です。間氷期には海面が上昇して海が進入して粘土層をためます。それが14枚の海成粘土層です。これまでは川西粘土層はMa1であると考えられていました。しかし、川西粘土層と舞子貝層との関係がわかり、舞子貝層の化石が50万年前ごろの年代と考えられることから事情がかわってきました。

 大阪湾に進入した海進のうち、120万年前から60万年前までの海進は播磨平野にはおよばなかったことになるのです。

 播磨平野にはじめて海が進入したのは舞子貝層のたまった50万年前のことになります。この舞子貝層・川西粘土層をためた海を「朝霧の海」とよぶことにします。この朝霧の海とはどんな海だったのでしょうか。

舞子貝層の中の化石


表11 舞子貝層 化石リスト
1 コシダカガンガラ 9 サルボウガイ 17 ヤマトシジミ
2 アダムスタマガイ 10 イガイ 18 ウネナシトマヤガイ
3 アカニシ 11 ムカシチヒロ 19 アサリ
4 ムギガイ 12 ハリマニシキ 20 シオフキガイ
5 セキモリガイ(古型) 13 ウスユキミノガイ 21 ヒメシラトリガイ
6 ウネナシイトカケガイ 14 ナミマガシワ 22 マテガイ
7 イトケガイの仲間 15 イタボガキ 23 キヌマトイガイ
8 コベルトフネガイ 16 マガキ 24 クチベニデガイ


川西粘土層は、50万年前に播磨平野に初めて海が進入した時にできた地層である

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