ビオトープの生き物調査
2003年8月15日 神戸の自然シリーズデジタル化研究会 野外調査 |
学校ビオトープについては,これまでさまざまの利用方法が提案されてきています.そんな中で,誰もが考えつき,また多くの学校で行われていることとして,「ビオトープの生き物調査」が挙げられると思います.神戸の自然シリーズデジタル化研究会では,これを実際に行ってみて,実際に子どもたちにできるかどうかの可能性,教材としての有効性,問題点などについて検証したいと考えました.これは,その報告です.
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| 場所は,神戸市立糀台小学校の池のビオトープです.2003年8月15日に,生物群ごとにいくつかの班に分け,2時間ほどの採集活動を行って,理科室で写真撮影,同定を行い,後日結果をWebページ形式でまとめました.採集は専門的になりすぎないように,子どもたちができる程度の方法で行っています. |
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| 糀台小学校のビオトープ(右) |
調査報告
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1.目的
ビオトープを生物の発見の場ととらえ,どんな生物がいるかを実際に調査する.そしてその成果をもとに,ビオトープマップづくり,ビオトープ発見カードなど,各学校のビオトープで利用できるワークシート的な教材を作成する.
2.調査内容
- ビオトープの生き物しらべ(班別で行う)
■魚類班
魚類のリストづくりと,メダカの卵の採集.
■水生昆虫班
あらゆる水生昆虫の採集.
■動物一般班(ヒドラ,線虫,貝,甲殻類,両生類など)
昆虫・魚類以外のあらゆる動物を採集する.
■微生物班
プランクトン,原生動物等,顕微鏡的サイズの生物の採集.
■水生植物班
水生植物の種類と分布をしらべ,植生マップを作成する.
※今回は池周辺の陸上植物は扱わないことにした.
- 採集方法の検証
1.の過程を通じて,潜んでいる場所の解明,また採集方法を検証・確立する.
- 見つかった生物の撮影
理科室で見つかった生物を撮影し,教材化の資料とする.微生物はビデオカメラ付きの顕微鏡でビデオ撮影,1−10mm程度の小動物は,メダカの発生を撮影した方法,それより大きい生物は,デジタルカメラを用いる.
3.日程
9:30 集合・準備・打ち合わせ(ビオトープ前)
9:50 採集開始
12:00 昼食
13:30 採集品の整理と撮影(理科室)
14:30 総括
15:00 解散
4.準備物
(●は各個人で準備,○は主催者が準備)
● 水に入ることのできる足回り,タオル,など
○ 魚類・水生昆虫採集のための水網(大小いろいろ)
○ 固定のための薬品(70%エタノール)と液浸びん(相当数)
○ プランクトンネットなど,プランクトンを採集する用具
○ 顕微鏡,双眼実体顕微鏡または解剖顕微鏡
○ 採集品を一時的に入れる容器(ビーカー,バット,シャーレなど)
○ 撮影のための水槽(背景を水色に,数日前から水を張っておく)
○ ピンセット,駒込ピペット(スポイト)
○ ビデオカメラ,デジタルカメラ,三脚,テープ,記録メディア.
5.調査の実際
実際の調査風景を写真とビデオで示す.
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| 魚類の採集(魚類班) |
ヒドラをさがしている(動物一般班) |
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| 植生内生活者をさがす(水生昆虫班) |
底生生活者をさがす(水生昆虫班) |
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| プランクトンネットで採集(微生物班) |
プランクトンネットで採集(微生物班) |
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| ピペットで小動物を採集(微生物班) |
採集した微生物にラベルする(微生物班) |
微生物の採集(ビデオ)
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6.結果
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結果の写真を見るときはここをクリック |
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結果は,大型の動物として,両生類が1種,魚類が4種,水生昆虫10種,昆虫以外の水生節足動物1種,貝類3種,環形動物(ヒル)1種,顕微鏡的なサイズの生物として30種類以上(同定できないものもいて,正確には分からない)を採集した.水生植物は37種を確認し,植生図に記載した.
7.考察
■1.教材としての利用
結果としては,かなりの数の動植物をビオトープで見いだすことができた.結果を一覧表にまとめるというだけでも意味あることと思われるが,さらに以下のようなねらいを設定すればどうだろう.
これくらいの結果を出せれば,以下のような視点で,ビオトープを教材として利用することができると思われる.
- フィールド模擬調査としての位置づけ
子どもたちを実際に野外のフィールドに連れ出してこういった実習を行うことは難しいであろう.その点学校ビオトープを使うことで,こういった生物調査の目的の立て方,方法の習得,結果の整理の仕方など,実技演習を行うことができる.例えば,植物の調査にコドラートを利用させるといったことが可能である.これは今後の自由研究,課題研究などで活かすことができる.
- 生態系について理解する実習
今回,食物連鎖のさまざまの位置にある生物が見いだされている.これらの食性を調べさせて,食物連鎖の推定図をつくることができる.それをもとにして,生態系についての理解を深めることが可能であろう.生産者,一次消費者,二次消費者など,その位置について分類させる実習も面白い.
- ビオトープそのものの役割を理解する
見つかった生物のうち,生活史がよく知られているもの,例えば,トンボ,メダカなど,を取り上げ,これらの由来について調査したり,考えたりする.そして,これらの生物が,自分の生息範囲の拡大のためにビオトープをいかに利用しているかを考察したり,またビオトープがなくなったらこれらの生物はどうなるかを考察して,ビオトープの役割を考えさせることができる.
- 遷移・移住や人為的インパクトを具体的に理解する
ビオトープ設置直後からこういった調査を定期的に行うと,生物種が変動することが分かる.それによって,「植生の遷移」や「動物の移住」の概念を理解することができる.
また水生植物を間引いたり,水ぬきをする前後で調査すれば,人為的なインパクトが,どのような種類の生物群に大きな影響が出るかなどを知ることができる.
こういった知識は,自然界で起きていることを類推するのに役立つ.
■2.生物種の同定の問題 (同定:生物種の名前を決めること)
こういった利用を進めるに当たって,やはり一番ネックになるのは,生物種の同定であろう.これについては,まさに「学問に王道なし」の言葉が当てはまる.簡単にできるよい方法はないと,謙虚に受け取るべきであろう.つまるところ,知りたいという意欲を持って研修を深める以外にない.
その研修方法として一つだけはっきり言えることがある.「生物種の名前を覚えたいときには,標本を作製すること」である.標本をつくることは生物を殺すことであるが,この過程がない限り,生物種を見分ける技術を身につけることはできないと知るべきであろう.専門家でさえ,長い間実物,つまり標本を見ていないと,区別が怪しくなることが多いのである.標本との比較をすることによってはじめて観察眼が身に付き,種の区別が付くようになる.
写真はよくない.なぜならば,同定のために本当に見るべき場所が写真撮影時には分からないことが普通で,同定するための参考にならない場合が多いからである.むしろその生物について熟知している人であってやっと,同定に役立つ写真撮影ができると思われる.ただし,標本が作製しにくい微生物については,写真でよいと考えている.
そこで,植物について,私たちは「植物標本の作り方」のページを作成した.ぜひ参考にして,生物の名前を知る活動としての標本づくり,そして標本と比較して種名を決める,といった観察眼を養う活動を進めていただきたい.これは,実際の分類学者がやっていることに似た活動で,実習としては意味があることである.
そうやって,一種,また一種と種名が確定できる種を積み重ねていくこともまた,ビオトープを使った実習の一つといえる.一つの標本を与え,ある程度の期間子どもたちに種名の調査を任せる,といった活動をさせるのもいいかもしれない.
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