神戸の自然シリーズ1 六甲の断層をさぐる
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南の五助橋断層 3−断層の追跡

 五助谷のこの場所は谷の底のような所で、展望はすこぶる悪い。そこで思いきって、断層面の崖を直登して尾根に出てみよう。

 谷にはさまれた瘠せ尾根であるが展望は充分である。200メートルばかり北東方向に小さい崖崩れが見える。谷底で測った断層の延長方向とも一致するようだ。再び谷に降りてダムの出合まで戻り、今度は住吉川の本流に沿って迂回して行く。住吉川の両岸には、高さ十数メートルの砂礫の崖が絶壁をなして並んでいる。大きい石は10トンぐらいもありそうだ。川がどんな状態のとき、このような巨石を運び得たのであろうか。この砂礫層の下部に花こう岩流紋岩が顔を見せている。

 住吉川の広い川原がせばまり、岩壁の間をくぐるように流れている所をこえ、さらに鍵形に曲がると、五助谷からみた崖への枝沢の口がある。草をかき分けて50メートルも入ると、五助谷と同じように、花こう岩、断層粘土、砂礫層の順に接している。そして、ここから北をあおぐと、六甲の主峰がおおいかぶさるように、そそり立っているのがわかる。五助橋断層を境に、北側の山が急に高まっている。

 本流にとって返し、再び川に沿って登る。100メートルも歩くと北に入る枝沢があり、地図をみると、出合から谷すじは東へ大きく曲がったのち、北向きに入っている。

 水晶谷(西滝ケ谷)でも同様に谷筋は一たん東に曲がったあと円を描くように流路をかえながら北上している。

 この風変わりな流路が三つの谷に共通してみられるのはなぜか。

 これには断層の動きが深くかかわっている。まず、谷の流路変更点はどの場合も五助橋断層が谷を横切る所と一致している。断層が動いたときに谷も一緒に引きずられて動いたのではないか。五助橋断層は垂直ずれだけでなく、水平ずれの動きもしていたのではないか。いま、断層面に向って正対すると断層の向う側の地盤が右側に移動しているから、このような断層を右ずれ断層とよんでいる。

 こうした水平方向にずれて動いた断層に注目するようになったのは最近のことで、六甲山地では、諏訪山断層がもっとも典型的な例である。この問題については、諏訪山断層の項で詳しくふれる。


水平ずれ断層 (a)は動く前,(b)は動いた後,川や池は断層で引きずられて流路がかわったり,形が変化する.(b)の場合,断層に向って右に動いているので右ずれ断層である.逆に左に動いたときが左ずれ断層である.

垂直ずれ断層 (正断層)
右側がずれ落ちた場合.垂直ずれといっても垂直に落ちるのは少く,こめように斜めずれが多く,同時に水平ずれを起こすこともある.
垂直ずれ断層 (逆断層)
左側が衝き上げている場合で,六甲山地にはこの型に水平ずれの加わった断層が多い.衝上(しょうじょう)断層ともいう.
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