神戸の自然シリーズ12 神戸の地層を読む1
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-2.大きな崖が提供する情報
粘土層は、化石層の上下で微妙に色が違っていた。


色あいの変わる粘土層

 この貝化石の層がどんな、ふうに続いているのかを見るために、崖から離れて全体を見渡しました。そのとき今まで気づかなかった二つのことに気づきました。その一つは、1枚の粘土層のように見えていたものが、貝化石の多いあたりの上下で微妙に色が違うことです。もう一つは、貝化石の層の下に白っぼく薄い地層のあることです。

 色の違いで区別した下の方の粘土は、やや緑がかった青灰色ともいうべき色で、上の方の黒っぼい青灰色とは明らかに見分けられます。そして両者の境あたりには、褐色がかった暗青灰色に見える部分もあります。

 下部の縁っぼい青灰色の粘土を手にとってみると、水にぬれている部分では確かに粘土のようですが、乾いた部分は、砂つぶを含んでいるようにも見えます。崖にハンマーで足場をつくりながら登ると、下から二mの所で、粘土の色ががらりと褐色に変わりました。褐色がかって見えた所には、小さな木片をはじめ植物の破片がたくさん入っています。

 この層を横に追っていくと、木片が層になっている個所もあれば、なかには年輪のはっきり読みとれる太さ数十cmの大きい幹の化石もありました。粘土が褐色がかっているのは、こんな植物質の化石が多いからではないかと思います。

地層の変化を調べる
色と粒の大きさが変化している。火山灰の層も見つかった。


 この上の部分が青味がみった暗灰色の粘土ですが、よく見ると実は粘土というより砂のようです。粘土であれば、水にぬれた部分を手にとって指でつぶしてみると、特有のヌルッとした感じがあり、一つ一つの粒ははっきりしません。同しようにやってみると、指先にジャリッとした手ごたえが、ありました。どこから砂に変わったのかと もう一度下におりて、地層をけずりとって観察しながらあがってみました。木片の含まれていた部分は確かに粘土ですが、地層の上位になるにつれ、しだいに粒が粗くなって砂になっているのです。粘土から砂への移りかわりは、当時の海のようすが変化したことと関係がありそうです。

うすいピンク色の火山灰

 さきほど離れて地層をみたとき、白っぽく見えた地層は、木片の多い所のすぐ上にありました。白っぼく見えたけれども、手にとってみると、紫色がかったピンク色です。それは横方向にはっきりした層になって続いておらず、薄くなったり、厚くなったり、固まりのようになっている所や、とぎれている所もあります。

 指でこすってみると、かなり細かな粒ですが、サラッとした感じがあります。日光に当てるとキラリと光る粒がたくさんあります。固まりでとってみると、ずいぶん軽く指先でつぶすと指の聞からこぼれた粒は風に飛ばされるぐらいの軽さです。舌をつけると、瞬間舌は吸いつけられます。

 これは砂でなく、火山灰です。この当時、日本列島のどこか、たぶん神戸より西の方で火山爆発があって、風にのってここまで飛んできたのです。この火山灰層がきれいな層になっておらず不規則な続き方をしていることや、粘土中に火山灰が散りばめられていることなどから、粘土のたまるような水底に、いったんたまった火山灰は、その後、水の流れや動きによってかき乱されたり、粘土と混ぜ合わされたりしたのだろうと思います。この火山灰はいつごろ、どこの火山で噴出したものでしょうか。化学成分や年代を測定するために、標本として持って帰り、火山ガラスの化学組成は西田史朗さん(奈良教育大学)に、屈折率の測定や鉱物の種類は新井房夫さん(群馬大学教授)に、ジルコンという鉱物を使っての年代測定は檀原 徹さん(京都フィッショントラック)に依頼し発送しました。

生痕化石(サンドパイプ)
小動物のすみ痕が貝の破片を含んだ粘土によって埋められている。


サンドパイプの棲み家

 火山灰層やその上下の粘土層の中に直径が3cmほどで長さが10〜20cmの黒っぽい筒状のもようがあります。よく観察するとたてに伸びた筒の中には黒ぼい砂と粘土と共に細かくくだけた貝がらがいっぱいつまっています。これは、かつてこの粘土が水底にたまっていた時、ここに積んでいた動物の巣穴で生痕化石と呼ばれるものです。ふたまたにわかれているものもありますが、横へ伸びるものはなくすべて上から下へ伸びています。たぶん貝のすんでいた穴だろうと思われます。

 別の所では、同じような生痕化石でも、その中をうめているものが砂であるところもありました。砂拉でできた管とい、つことで、砂管(サンドパイプ)とも言われます。その棲み家にいた貝が水をはき出すたびに細かい粘土のような粒は水といっしょに穴の外に出てしまい砂の粒だけが筏っているものです。

 サンドパイプが見つかったということからこの粘土のたまったのは、貝のすんでいるような浅い海底であったと推定できます。

なぜ、海のカキと一緒に淡水の ヒシが出てくるのだろう。 ヒシは火山灰の層から見つかった


粘土の中のヒシとクルミ

 火山灰層の上下と、粘土が砂に移り変わるあたりからたくさんのヒシの実の化石がみつかりました。本来は、四面体の先に針がついているような形をしているものですが、ここで見つかった化石はそれがつぶされて、へちゃげた形をしています。

 ヒシというのは、池など淡水(真水)のところにはえる植物です。カキやサンゴの化石、生痕化石などからここは、海底であったと考えざるを得ません。どうして淡水性の植物であるヒシの実の化石があるのでしょう。きっとヒシの実は、池から川、そして海(入江)へと運ばれて、海底に沈んだのでしょう。

 道をへだてて向い側にも同し粘土があり、そこではヒシの実は見つかりませんでしたが、クルミの実の化石が見つかりました。ほかにエゴノキの実と思われる小さな木の実もありました。これらの木の実は、硬いために化石として残りやすいのでしょう。同し粘土層の中でも、化石が集中的に含まれている所と全くないところがあったり、ヒシの含まれている所とクルミが含まれている所がはっきりわかれているのはどうしたわけでしょうか。

 ところで粘土の中に含まれている化石をさがすのにはちょっとしたコツがあります。むやみやたらにハンマーやシャベルで地層を掘りかえしてみても見つかるものではありません。化石がよく見つかるのは、雨の降った後で、粘土の表面が洗い流されて化石がくっきりと浮き出ている時です。化石の全部が表面に出ていることは少なくその一部が見えているのがふつうです。ここの貝化石や木の実の化石はこわれやすいから、化石の入ってる粘土を固まりのまま持って帰り、水につけてしばらく置いておき、その後粘土を洗い流すのも一つの方法です。

 このように地層から取り出した化石も、乾燥するとボロボロに壊れるものがあります。植物の実などは、水を入れた小びんに入れたり、小さい紙箱に綿を敷いたりして保管します。

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