神戸の自然シリーズ12 神戸の地層を読む1
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4.地磁気の化石をさぐる

地磁気測定用の試料を採取する


地磁気の化石とは
 写真の人達は地層に向って何を調べているのでしょうか。彼らは地磁気の化石を採集しているのです。地磁気というのは、どんなものか、かいつまんで説明します。

 磁石がいつも南北をさすのは、地球の北極が磁石のS極を、南極がN極を示す大きな磁石のようになっていて、地球の表面はその磁石の磁場だというのは、よく知られています。地球のもっている磁性を地磁気といいます。

 かつて地球の南北は入れかわっていた、といっても、とても信じられないことですが、確かにN極が南を向いていた時期の証拠があるのです。1929年、日本の地球科学者松山基範(故人)が、世界ではじめて地磁気の逆転現象を明らかにしました。この研究がきっかけになって、世界各地で、かつての地磁気(古地磁気) について調査がすすめられるようになりました。その結果、ながい地球の歴史の中に何回も地磁気が逆転したり、もとに戻ったりしたことがわかってきました。


粘土は乱さないように採取し、その方向を正確に記録する


 古地磁気の測定試料になるのは、火山岩がもっともすぐれた試料ですが、地層では湖や海に堆積した粘土や火山灰です。それらの中には、弱い磁気をもつ磁鉄鉱などの鉱物(磁化鉱物)が含まれています。粘土や火山灰が静かに沈んでいくとき、磁化鉱物は、そのときの地球の磁場の影響をうけて、その方向に並びます。

 いま、磁化させた小さい針を水に浮べると、針は南北を向きます。それをそのまま沈めたのと同じです。一度堆積してしまうと、堆積物中にしっかり封入された、小さな磁石はもう動きません。その時代の地磁気の情報をもったまま地層の中に保存されます。

 何万年、何十万年もたった現在、それをそっと取りだして、この小さな磁石の方向を測るので、「地磁気の化石」の研究といわれる意味がわかると思います。

 太平洋や大西洋の海底で、切れ目なく連続的に堆積している地層や、噴火時期のはっきりしている火山噴出物中の古地磁気を測定した結果、右図のような地球磁場の歴史が編集されています。研究学園都市の地層の古地磁気を手がかりに、地層のできた時代をきめようというのです。

■研究学園都市の古地磁気
 神戸大学の井口博夫さんは古地磁気の立場からこのあたりの地層の研究をしている研究者で、私たちは何度も共同で野外調査をしてきました。

 ところで、古地磁気測定の粘土を採取するには特別の工夫が必要です。粘土の中に残っている微妙な地磁気の記録を、みだすことなくそっと取り出さなければなりません。どんなふうにして採取するのでしょう。

 まず粘土層を垂直に切ります。その面に金属管を打ち込んで粘土を取り出します。金属管が安定して打ち込めるように、写真のような穴のあいた板を当てておきます。もちろんこのように取り出した粘土には、現在の方位を記録しておかねばなりません。ふつうは10cm間隔ですが、5mの厚さの粘土層ならば50回、3本セットの150個の粘土のサンプルがとれるわけです。傾斜のきつい崖で、地層の面どりから始めて記録までの作業をしますから想像以上の重労働です。一か所での作業が半日から一日中かかることもあります。この粘土を研究室に持ち帰って、その中に残された古い地球の磁石の記録を測定することになります。

 井口さんの研究によると、今までに私たちが見つけた粘土について、次のような結果がでました。


測定した粘土 (地層名) 残留磁気極性
第一湖成粘土層 (小寺層) 正磁
第二湖成粘土層 (小寺層) 正磁
高塚山の湖成粘土層 (高塚山層) 正磁
高塚山の海成粘土層 (高塚山層) 正磁
馬谷の海成粘土層 (高塚山層) 正磁


 この測定結果を、世界の残留磁気性と比べながら、地層のできた時代を調べてみますと、次の二通りの案になります。

 ひとつは、小寺層は100万年前後のハテミロ正磁期に、高塚山層はブリユンヌ正磁期に、もうひとつの案は、小寺層はオルドバイ正磁期に、高塚山層はブリユンヌ正磁期で、この案だとかなり古くなります。ほかにも、この二案と違った組合せが考えられますが、後から述べるメタセコイアやアカシ象の出現期との関連も考慮して、この二案を選びました。

 つづいて花粉やケイ藻の化石から地層のできた当時の環境と時代をさぐつてみましょう。

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