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5.目に見えない微化石は語る
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小寺層の粘土から取り出した花粉化石(モミ)約400倍
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■森林と気候を復元する花粉分析
研究学園都市の地層を調べる対象が微細な火山ガラスや粘土中の磁化鉱物のようにだんだん細かくなってきました。ここにとりあげる花粉やケイ藻の化石も肉眼では見えない顕微鏡的な大きさの生物の化石(微化石)です。
花粉は花が咲いたとき、おしべのやくから外へ出ますが、地面に落ちたままでは分解されて消失します。湖や海に運ばれた花粉は、酸素の少い水中では、細胞貿は分解されますが、それを包んでいる花粉膜は写真のように残ります。しかもその形は植物の種類によって、さまざまです。地層の中の花粉化石をとりだして親植物をきめ、それらの組合せを陸上にもどすと、当時の森林などの植物界のようすが復元できます。この研究を花粉分析といいます。
■落葉樹の多いアカシ象の粘土
アカシ象が見つかった小寺層の花粉分析では、マツ、モミ、ツガ、スギ、メタセコイア、コウヤマキなどの針葉樹に、ブナ、落葉性のコナラ亜属、常緑性のアカガン亜属、シデ、ハシバミ、ハンノキ、シイなど多くの木の花粉化石が認められました。なかでも注目されるのは、ブナやコナラ亜属、シナノキなどの落葉広葉樹が認められることです。これまでの研究では、アカシ象の地層は、暖かい気候を示す常緑樹が多いといわれてきていました。ところが香川県のアカシ象を産出する地層には小寺層と同じ傾向である落葉広葉樹が増加するとの報告があります。
またアカシ象の年代に関する新しい情報として、琵琶湖西岸の堅田丘陵のアズキ火山灰層より上位の地層からアカシ象が発見されています(12)。フィッション・トラック年代では約80万年前の測定値も出ています。この頃は、いわゆる氷河気候に入りかけた時期で、温暖な気候と寒冷な気候とが交互に訪れるようになってきました。したがって、小寺層の示す古気候も温暖期であるものの、現在でいえば温帯気候に近い状態だったと推定できます。
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| キンベラ(淡水棲) |
サイクロテラ(海棲)約400倍 |
高塚山の粘土層から取り出したケイソウ
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■落葉林から常緑林へ移った高塚山層
サンゴやサメの歯の発見された高塚山層では、貝の多い粘土層と、緑っぽい淡水成粘土とを調べました。下位の淡水成粘土に多いのはブナ(22.7%)、アカガシ亜属(14.3%)、ハンノキ(13.3%)ケヤキ(12.3%)などで、モミ、トウヒ、マツ、ツガ、スギ、コウヤマキ、サワグルミ、ヤナギ、シデ、コナラ亜属などですが、海成粘土層のときの森林はがらりと変わります。とくに増加したのはマツが3.5%から26.4%に、アカガシ亜属が14.3%から31.2%にも増えています。
このほかに増加した樹木は、モミ、コウヤマキ、マキ、シイなどで、減少したものにはツゲ、スギ、サワグルミ、オニグルミ、ヤナギ、ハンノキ、シデ、ブナ、コナラ亜属、ケヤキなどで、とくにブナでは22.7%から11.8%に、ハンノキは13.7%から1.7%にケヤキは12.2%から2.4%に減少しています。
こうした結果から当時の森林を考えると、湖か沼だった高塚山層初期は、ブナ、アカガン亜属、モミなどの温帯移行林でできていた森林が優占していました。そして海が進入してくる頃には、暖帯の常緑広葉樹のアカカシ亜属、シイなどが森の中核を占め、海岸にはクロマツが繁茂する森であったと推定できます。温帯林から暖帯林へ質的な変化が起ったのです。この原因として考えられるのは、気候暖化です。
この気候暖化を支持する現象として、シオガマサンゴやメジロザメ、アカニシなど暖かい海にすむ生物の化石が産出することがあげられます。
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三つの生態区分に類別したケイソウの出現状況(佐藤)
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■淡水から海水へと立証したケイ藻
ケイ藻化石は、高塚山層のハシモト火山灰の上下で面白い事実がわかりました。ハシモト火山灰の真下の植物質の多い灰褐色粘土からは、湖や沼などに棲む淡水棲の種ばかりで、海水棲は一種も検出されていません。なかでもオーラコスリラ・イタリカという湖のような止水域に多い種が圧倒的に多く出現しました。
いっぽう火山灰真上のマガキの多い部分では、淡水種がぐんと減り、海水棲が増加します。なかでもサイクロテラ・ステイロラムが一番多く、この種は、熱帯海域の沿岸に多いケイ藻です。ケイ藻分析をしてくださった佐篠裕司さん(兵庫県庁)は、当時の堆積環境を、流れの緩い河川か湖に、海水が進入してきて内湾になったと解析しています。
さきの花粉分析の結果やシオガマサンゴの産出などの事実を考え合わせると、高塚山層の海成粘土は、気候の温暖な間氷期に堆積した地層であることがはっきりしました。
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