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6.れきの出生をさぐる
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■厚い砂れきの地層
私たちはここまでほとんど「粘土層」と「火山灰層」のことばかり述べてきました。それはそれなりに理由のあることなのですが、砂でできた地層や、レキでできた地層を無視するわけにはいきません。
学園都市駅の崖の東方には、ほとんどが砂とレキからできた地層があることは前にもふれました。砂れき層は、地層の境の面がはっきりしないため、地層の傾きはわかりにくいものです。しかし写真のようにその中に砂だけでできた薄い層があったり、れきがきれいに並んでいたりする所があると傾斜がわかります。ここの砂れき層は15度から30度ほど西に傾いています。この砂れき層の厚さは実に数10mにもおよぶ厚い地層だとわかりました。もちろん砂れき層と言っても均一ではなくれきが大きい部分、れきが多い部分、少ない部分、れきが非常に少なく「れき混り砂」と言った方がいい部分といろいろな変化がありかなり複雑です。
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流紋岩とチャートのれきが、雑然と入っている。 |
厚いれき層の分布している所
(国土地理院2.5万分の1「前開」「須磨」を縮小)
この地図は,国土地理院長の承認を得て,同院発行の5万分の1
地形図及び 2万5千分の1地形図を複製したものである
(承認番号 平14総複,第389号)
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いったい、この砂れき層は、どの時代に、どのようにしてできたのでしょうか。
西に傾いているのをこの砂れき層を追いかけていくとどうなるのでしょうか。学園都市駅の崖にはこのように厚い砂れき層は見あたりません。この砂れき層が見られる地点を地図上に書いてみると南北には伸びているが、西へ行くと消えてしまい、東の方へもだんだん薄くなることがわかりました。そして、西へ行くほど砂の部分が多くなり、だんだん薄くなり、やがて粘土層に変っていくのではないかと思えました。ここで言う粘土層とは小寺層の第一第二湖成粘土のことです。この粘土と砂れき層との関係をみますと、粘土をためた湖の近くに、このぼう大な厚さの砂とれきが積み重ねられた場所があったということが考えられます。さらに東には砂れき層も粘土層も全く見られません。ここはその当時から陸地であったのでしょう。その湖と陸地との間に位置するのがこの砂れき層のある位置です。
そこで私たちは、次のように考えてみました。
『当時西へ広がる湖に、東から流れこむ川があった。その川は洪水のたびに砂やれきを運び、その谷の出口のあたりに砂やれきが堆積した。その砂とれきがこの地層だ。』
すなわち、川が山間部の急流から平野に流れだすあたりにできる扇状地をつくっていたのが、この砂れき層だと言うわけです。
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| (研究学園郡市) |
(八代学院北) |
洗い出した2種類のれき
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■扇状地のれきと海岸のれき
この砂れきをもう少し詳しく調べようと、バケツに一ぱい砂れきを持ち帰りました。全体の重さを測ってから、ふるいで砂とれきに分けます。次にれきを水でよく洗い表面をきれいにします。れきは2種類の岩石に分けることができました。多いのが流紋岩のれきです。流紋岩は火山岩の一種で、ふつうは白っぽい色をしています。しま模様の見えるものや緑色をしたものもあり、共通性がないようにも見えますが、よく観察すると石英や長石の結晶の粒があるのが特徴です。もう一種類はチャートのれきです。チャートは非常に硬い堆積岩で、白、黒、茶、緑、赤をどいろいろな色のものがありますが、どれも表面はつるっとした光沢があります。れきをこの二つに分けてそれぞれ重さを測り、大きさや形も調べてみました。
こんなふうに何か所かの砂れきを調べていくうちに、今までと全くようすのちがうれきのあることに気がつきました。それは高塚山の南、八代学院高校の近くでとった砂れきです。
れきだけを取り出して水で洗った状態で見たものが上の写真です。左側(A)と右側(B)ではどこがちがうでしょうか。
第一の違いは、れきの種類です。(A)は、チャートと流紋岩の2種類ですが、(B)はチャートぱかりです。
第二の違いは、れきの大きさです。(A)はいろいろの大きさのものがありますが、(B)は粒の大きさがそろっています。
第三の違いは、れきの丸みです。(A)は、やや角ばっていたりでこぼこがあったりしますが、(B)は全部が丸みをおびています。
ではこの違いは何を示しているのでしょうか。(A)のれきは、川によって洪水などの時に運ばれたものだろうと述べました。この時は短い時間に砂もれきもどっと押し流されてくるわけですから、粒の大きさがそろうはずはありません。いっぼう海岸で波が打ち寄せるような所では、同じような大きさのれきが一か所に集まっているのを見かけることがあります。(B)は波の動きによるふるいにかけられて大きさがそろったのではないでしょうか。そのような場所だと第三の違い、れきの丸みのことも理解できます。波によって回転しながら洗われている間に丸くなったのでしょう。
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海岸性のれき(学ヶ丘層)の分布.
この地図は,国土地理院長の承認を得て,同院発行の5万分の1地形図及び 2万5千分の1地形図を複製したものである
(承認番号 平14総複,第389号)
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きれいに層をなして並んだれき
扁平な形が多く95%以上がチャートのれきである |
ではなぜ (B)には流紋岩のれきがないのでしょうか。チャートと流紋岩の硬さにその理由がありそうです。(A)の流紋岩のれきを見ると素手で割れるもの、ちょっとたたくとポロポロに壊れてしまうもの、中には水で洗っているうちに水に溶けてしまうものまであります。ところがチャートはそんなふうに簡単には割れません。(B)では波に洗われているうちに流紋岩のれきは、砂などに変ってしまったのだと考えられます。
では(B)のように海岸にたまったと思われるれきは、ほかにどんな所にあるのだろうかと、さがしてみました。
その結果、何か所かで同じような砂れき層をみつけることができました。いずれも標高では105〜130mの所で、山の最上部、あるいは尾根のような所にあり、小寺層や高塚山層の一番上にちょっぴり乗っているという感じで分布していました。その中でも特にみごとだったのが、若葉学園の裏の山のもので、同じ大きさのチャートのれきが、きれいに層状に並んでいました。
こうしてみると、小石や砂ばかりの砂れき層にも、一つは川の運んできた扇状地のれき、もう一つは波に洗われた海岸のれきというはっきりとした出生の違いがあったのです。
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