神戸の自然シリーズ6 神戸の野鳥観察記
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■4.カケス −貯食性と物真似

4.物真似

 カケスは物真似鳥としても知られている。キュウカンやオウムと同じである。その目的のため飼育する人があった。人の言葉などを教えようとするならば、野生の成鳥を捕えて飼っても無理で、雛を人工哺育し、幼鳥期間に教え込まなければならない。簡単な人語は2〜3覚えることができ、家畜の声や物音なども覚えることができる。山の森でも他の鳥や獣の鳴き声をまねているのが聞かれる。この鳥には小鳥のさえずりにあたるような鳴き方がない。わけのわからないぐぜりをすることがあって、はて「何鳥かな」と私たちをとまどわせることがあるが、続けて聞いていると、すぐに地声になるのでバレてしまう。その中にときどき他の鳥の声が顔を出すのがおもしろい。それもカラスやトビのように誰でも知っているようなはっきりした声のことが多い。六甲山や神戸の山に留鳥的にいるカケスの物まねのレパートリーは大体次のようなものである。やはり同じ科のカラス (ハシブトまたは、ハシボソらしいもの、両方ある)が多く、トビがこれにつぐ。サシバとハチクマの多い小部ではそれらの声や、回数は少ないがキジ、コジュケイの真似も聞いた。六甲山ではネコ、イヌ、キツネ、ニワトリ、珍らしいのでは「ヤッホー」と呼ぶ人声、自動車の警笛らしい音がある。秋から冬にかけて神戸にくるものの中には、ノスリ、クマタカなどの声をやるものもある。これは、そのようなタカの多い地方で幼鳥期間をおくった個体と推定できる。モズの所でもふれたが、他の鳥の声を覚えるのは、生まれてから半年ほどの幼鳥期間、それも巣立ち後2〜3か月頃が最も盛んで、その後はほとんど覚えられない。これはキュウカンを調教するときでも同じことで半才頃まではどんどん覚えてもその後はほとんどだめであることからもわかる。

 ウグイスのような小鳥のさえずりに地方差があり、それがほぼ固定しているのも同じような理由からで、幼鳥期間に自分の近くでさえずる親鳥の影撃を大きくうけるからである。

 だから物真似の中味を調べていくと、その鳥の出生地の見当がある程度つけられる。少なくとも神戸生まれか、それとも外来者かはわかるはずである。クマタカの声をまねるカケスは外来者と見てよいだろう。クマタカは神戸には秋や冬にまれに来るだけでカケスが覚えるほど声を聞かせてくれることはない。ノスリは冬に来るがめったに鳴かない。だから、クマタカやノスリの声をやるのは、これらのタカが繁殖し、たえずその声を聞いて育ったカケスである。

 また、物真似の目的をいろいろ考えてみたことがある。カケスが物まねの対象として選ぶ相手は、日頃から天敵としておそれている鳥が多い。カラスは巣を襲う油断のならない大敵であり、タカは小鳥の最もおびえている相手である。野生化したネコは鳥にとって危険な存在であろう。そのような声をとくに好んで真似ることは仲間や他の動物に対する威嚇の意味を持つのではないかと想像してみた。ぐぜりの中にトビやカラスの声を盛んに入れるのは効果のほどは疑わしいにしてもテリトリーの誇示と考えられる。テリトリーの必要のない冬にもやるが、それは冬にウグイスやホオジロがさえずるのと同じようなものとみればよい。

 ある期間、神戸の山の鳥の移動を調べるため、許可を受けて多量のカスミ綱で、標識の調査を行ったことがある。カケスもときどき綱にかかるが、それを捕えるため近づくと、口を開き、怒りを全身にあらわしながらも盛んにノスリの声を発するのがあった。明らかに威嚇とみられる。手でつかまえるとさすがその余裕はなく、口を開いて今にも咬みつこうという姿勢で身がまえるだけであった。

 捕獲したカケスが傷を負って地上を跳ねて逃げながら、タカの声を発することがあったということを聞いた。ずっと前、カケスが狩猟鳥として認められていた頃の話である。

 標識調査の際、しばらく籠に収容する場合がある。傷つくといけないので、布で被って暗くしておくが、その中でトビの声をやっているのがあった。

 また、小鳥屋の店にまだ馴れていない野生に近いカケスが並んでいたことがある。人が近づけば、バタバタ暴れているだけであったが、少し離れると、トビの声を発した。

 ここにあげたいくつかの例は危急の場合ばかりである。

 しかし、春先、気持ちよさそうに羽毛をふくらませて日光浴をしているカケスが、そのぐぜり鳴きの中に、トビやカラスの声がときどき顔を出す。どう見ても楽しんでいるようにしか見えない。気のせいかこのようなときの物真似は調子も明るいように感じる。

 カケスの物まねの目的について人間的な感覚でどうこういうことは私はきらいである。さらに自分勝手な考えを主張するのはきわめて危険である。想像はこの程度にし、結論はさしひかえたい。

 参考までに、カケスは捕獲するにも飼育するにも環境庁から特別の許可を受けなければならない。それも趣味で飼うという程度では認められない。学術研究などの正当な理由が必要である。


カケス スズメ目 カラス科
 雄雌同色で、頭上は白色、各羽に黒の軸紋があり、頭上の羽毛はやや長く羽冠になっている。目先と頬は黒色、喉は白色である。体の上面はわずかに紫色がかった褐色、腰と上尾筒は白色で、体の下面は上面より赤味があり、後方ほどその色が淡くなり、下尾筒は白色である。風切羽は黒色で、初列風切羽の外縁の前半は白色、次列風切羽外縁の基部には、黒、青、白の横縞の模様があり、そこから先の外線は白色で、これは羽毛の先端にとどかない。三列風切は光沢があり、最内側の羽毛の内縁は栗色である。大雨覆初列雨覆小翼羽には黒、青白の美しい横縞の模様がある。嘴は灰色、虹彩は汚白色、脚は淡褐色である。
 嘴峰 28〜32mm、翼の長さ 160〜180mm、 37〜40mm、尾の長さ 130〜160mm、開長 470〜520mm、全長 280〜320mm、体重 120〜160g。
 雄の方がわずかに大きい。ハトより小さいが尾が長く、場合によっては、ハトよりも大きく見えることがある。羽ばたきは緩慢で、上尾筒と腰の白がよい目印になる。
 北海道から屋久島にわたって、ほほ全土に生息する。北海道のミヤマカケスはとよばれ、サハリンとシベリア系の亜種に近い。奄美大島、徳之島のルリカケスは同属の別種である。カケスはヨーロッパ、シベリア東南部からサハリン、日本列島を経て、中国、インドシナ、ヒマラヤ、アフリカ北部に分布する。

英語名 Jay
   学 名 Garrulus glandarius (Linnaeus)

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