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2.土地の様子とシダ
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2.土地の様子とシダ
神戸背山の六甲・帝釈・丹生山地の地質は大部分は花崗岩であるが、他に、古生層・有馬層群・金剛童子流紋岩・神戸層群・大阪層群からなっている。
六甲花崗岩は、ほぼ1億年前くらいにできたものであるようだが、地質学者の説では、今から50万年前くらいから起こった急激な六甲地殻変動によって、大きな圧力を受け、歪みが生じた。
その歪みを解消するために、六甲花崗岩は多くの傷、すなわち、割れ目を生じたという。歪みが大きかったせいか、よく見ると割れ目の中にさらに細かい割れ目が出来ている。割れ目の多い岩だから、集中豪雨になればすぐ崩れてくる。六甲花崗岩はすぐばろぼろになる砂山的体質のものである。(藤田和夫「日本列島砂山論」創造の世界)
この六甲山の砂山的体質が、今までも見てきたように六甲山の植物と大きくかかわりを持っている。六甲山地の急な崖や岩上にアカマツが生えたり、他の植物が育つのはこうした理由によるものである。
(1)古生層岩上に生えるシダ
ところが、ぼろぼろになり、風化が進みやすいことは、岩面に胞子がつき、発芽し、育つシダではその成長が速くないと、風化についていけないということになる。
このような六甲花崗岩に対して、六甲山地の東部・垂水の西北部・北区の山田川流域には古生層の露頭が見られる。古生層の岩は一部変成してチャート化したりして、容易に風化が進まない安定した岩である。
安定した岩上で、まわりには樹木が茂り、湿度などの条件に恵まれているところでは、花崗岩地と違った種子植物・シダ植物が生えることが、当然、予想される。
神戸の地質・岩石の研究をしている私たちの研究グループの上田稔氏が、神戸で初めて、シシランの自生地を見つけた。しばらくたって、氏の案内でその自生地を訪ねた。
小さな谷筋の、上からかぶさるように突き出た岩上にはヒトツバが群生し、そのヒトツバの群れのとぎれたあたりに、写真のようにシシランが生えている。育ちもよく、立派な群生地である。神戸の山でのシシランの唯一の自生地である。
まえまえから、シシランなどの岩上着生シダは安定した古生層の岩上に多いのではないかと考えていたが、このシシランの着生している岩はやはり古生層の固いチャートの岩である。付近の地質は、花崗岩がなく、流紋岩や流紋岩質凝灰岩を含む有馬層群、それに砂岩・粘板岩・チャートを含む古生層である。シシランというシダは関東以西の本州・四国・九州に広く自生する常緑の暖地性要素のシダである。根茎は短くはい、単葉の葉を密生している。胞子のう群は葉の縁にそって長く縦に連なってつく。暗く、湿った岩上や樹幹に生育するシダである。
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シシランの生えるチャートの岩上には、ウチワゴケ・カミガモシダ・アツギノヌカイタチシダマガイというシダも着生している。
ウチワゴケは、コケシノブ科のシダで、胞子から一人前の胞子体になるまでの育ちが遅いせいか、シシランの場合と同じく安定した岩上に着生していることが多い。
カミガモシダは、シシランを調べに出かけたとき、新しく見つけたものだが、神戸では初めての自生地である。カミガモシダは兵庫県では丹波地方に多く分布する。自生地はやはり古生層の岩上である。神戸でのカミガモシダの自生地は、土地とシダとの結びつきを明白に立証してくれるものであった。
いま一つの、アツギノヌカイタチシダマガイというオシダ属の難解なシダも、私が神戸で最初に見つけたのも古生層の岩上であり、このシダについても、さきの3つのシダと同じことがいえる。
(2)洞窟とシダ
石灰岩地の洞窟(どうくつ)には珍しいシダが多い。神戸には残念ながら、そのような石灰岩地はないが、西北神の一部には、神戸層群をつくっている砂礫層のやわらかいところが浸蝕を受けてけずられ、固いところだけが残って洞窟となっているところがある。
仏谷洞窟付近のおもな植物 |
高 木
亜高木 |
スギ・ケケンポナシ・アラカシ・コナラ・アベマキ |
| 低 木 |
ヤマアジサイ・アオキ・ホソバタブ・シロダモ・ヤブツバキ・マタタビ・イヌガヤ・イボタノキ・シロバナウンゼンツツジ |
| 下 草 |
フユイチゴ・ドクダミ・ミズヒキ・ナガバジャノヒゲ・イワタバコ・チャルメルソウ |
| シ ダ |
リョウメンシダ・ジュウモンジシダ・ハコネシダ・ヘラシダ・ヒロハイヌワラビ・ゲジゲジシダ・ミゾシダ・イノデ |
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その一つが垂水区櫨谷の仏谷洞窟である。この洞窟は信仰の対象となったこともあって、付近の植生は今日までよく保存されている。岩壁をしたたる水と谷川の流れがあるために空中湿度が高く、多くのシダが繁茂している。普通林下の水辺近くに群生するが、神戸の山には自生地の少ないリョウメンシダが、大きく葉を広げている。ジュウモンジシダ・ハコネシダ・ヘラシダ・ハイホラゴケなど、神戸では珍しいシダが生えている。水のある洞窟はシダ自生の宝庫である。多くのシダが葉を広げているこの仏の谷は静かで、極楽の世界である。人が手を加えず、そっとしておきたいところだ。
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(3)断層とシダ
流れのある洞窟付近は空中湿度が高くシダが多く生えるのなら、六甲山地の地殻変動の歪みを解消する場となっている地形の複雑な断層破砕帯のある谷筋は、また保水力が強いことから、湿度も高く、シダの適育地になっているのではないだろうか。
摩耶山に通ずる西の青谷を歩いてみる。南の市街地から東西に、諏訪山・布引断層が走り、谷筋も南北に小さな断層が走っている。図中のAはひん岩、閃緑ひん岩などの岩脈が入り、土地の様子は一層複雑になっている。このようなところにはたいてい崩壊地があり、その付近の樹木はよく茂っている。草本層も多く、崩壊した斜面にほシダやコケが生えている。シダでは、イノデ・ヒロハイヌワラビ・ゼンマイ・ミゾシダ・ヒメワラビ。シダ以外では、シロバナウソゼンツツジ・ヤブウツギ・コアジサイ・クサアジサイ・ショウジョウバカマ、その他鮮苔類などが多い。
仙谷(そまたに)・住吉川上流五助橋断層付近で、断層と植物の関係を調べてみても、青谷のようなシダやコケ、種子植物が生えているのがわかる。
断層破砕帯と重なった谷筋では、そこが著しく浸食されるので、特別の地形をつくる。そういう地形と結びつく植物がある。
(4)コンクリートに生えるシダ
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風化・崩壊の進む六甲山の各地には堰堤が多く造られている。この堰堤が造られるところは岩盤が露出しているところであるので、そのようなところは、また、シダのよい自生地でもある。したがって、新しく堰堤が造られたことによって姿を消したシダも多い。最近、造られた紅葉谷堰堤工事で、ツルデンダは姿を消したし、数年前のツェンティクロスから森林植物園へ通ずる谷の堰堤造りでは、サトメシダや、サトメシダとヤマイヌワラビの雑種のオオサトメシダがなくなった。
ところが、堰堤が造られ、年数がたってくるとその堰堤のコンクリート上に、コンクリートを好むか少なくとも嫌わないシダが生えてくるのである。コンクリートは堰堤だけでなく、用水路にも使われているので、山田・淡河疎水の用水路でもそうである。
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コンクリートの壁面には、特に、ヤブソテツが多い。水が流れ、湿度が保たれて、かっこうの生育環境が作り出されているためであるが、それにしても、かなり群生しているところがある。
兵庫県下には分布していないが、石灰岩地帯には普通このコンクリート上に育つヤブソテツと同じヤブソテツ属のメヤブソテツが生育しており、メヤブソテツは好アルカリ性のシダの一つとして知られている。ヤブソテツも酸性の六甲花崗岩地と異なる石灰分の多いところを好むシダといってもよいであろう。
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