神戸の自然シリーズ6 神戸の野鳥観察記
  前ページへ 目次へ 次ページへ
■1.卵や雛を守る親鳥
カイツブリとその巣 翼の各部名称

3.卵をかくして外出するカイツブリ

 少し大さな池なら、たいていの池にすんでいる水鳥である。ハトぐらいの大きさだが、潜水の名人で、池の小魚や虫を食べている。

 飛び立つとき、水上を走りながら長い距離を滑走し、いったん空中に浮上すれば、小柄な体に似合わぬスピードで飛ぶ。

 暗い褐色がかった地味な色合いだが、春から夏にかけて、首や頭が美しい栗色になる。

 小型のカモに間違われやすいが、首の描く線と、背から尾にかけての線をよく憶えると、区別できるようになる。

 「キュル・・・・・・」と、水面によく響く声で鳴く。

 ここでは、浮き巣づくりにみせるこの鳥の知恵と、抱卵のときにみられる細かな愛情を紹介したい。

カイツブリ 抱卵中のカイツブリ

 カイツブリは、西神戸の溜池には一年中ごく普通に見られる、ハトほどの大きさの水鳥である。

 数多い水鳥の中でカイツブリほど、その生活のすべてが水と深くかかわっている鳥は少ない。たとえば水鳥の代表のように思われているカモは陸によく上るし、巣は陸上に作る。ウのような鳥でも休むときは岩礁や樹上である。カイツブリは休息するときも水上であり、巣も浮き巣といわれるように水面上につくる。

 カイツブリの巣をいくつか調べると、水が浅い所では、水底より巣材を積みあげて浮き巣にならない。そしてそのような巣が意外と多い。水深のある場合は、巣材の浮力を利用して浮いた巣をつくる。

 また、巣は、水辺に生えるアシガマの繁った中に多い。アシガマの直立状の茎がそのまま巣に組みこまれて柱になるから、水の流れや風で移動することはない。水深5-6cmぐらいから巣はみられる。

 浮き巣は、水生植物の少い池の中ほどの開けた水面につくられる。この場合は巣の下やそのまわりには、ヒシのような水草が組みこまれて、巣は浮いているものの、風のまにまに自由に流されるのを防ぐとともに、巣の強度をます支えにもなっている。水深15cmぐらいになると底にとどかない浮き巣になる。

 巣の材料は、アシの枯れた茎やわらのような粗大なものを積みあげていく。上部になるにしたがってクロモコウホネヒシのようなやわらかい水草が多く、とくに水面上に出ている部分や産座は、これらの水草でつくられている巣が多い。水面上の高さは割合に低く、ふつう2-3cmで、高くても5-6cm前後だが、水面下はその数倍の深さがある。とくに巣が水底にとどいていない浮き巣の場合、巣材の浮力を利用する必要からかなり大きくなっている。

 潅漑用の溜池では、降水や干ばつだけでなく、人為的にも水位の変化が大きく、その影響で巣の水面上の高さにもしばしば変化が生じる。水面上、10cmをこえる高い巣や、今にも水没しそうな不安定な巣を見かけるのは、こういう時である。水没するぐらい低くなった巣は、巣材を追加して修復するが、高くなりすぎた巣から、巣材をとりのぞいて低くするという才覚はこの鳥はもち合わせていないようである。

 正常な高さの巣でも、産座は水面からいくらもないので、卵のまわりの巣材の水草は、しみ出した水でつねに湿った状態にある。そのため、はじめは純白の卵も、水あかに染まって数日のうちに汚れが目立ちはじめ、褐色になる。

 カイツブリは、いつも新鮮な水草を巣の表面に用意している。これは親鳥が巣を離れて外出するとき、目立ちやすい卵をおおいかくすために、あらかじめ準備している材料である。親鳥は自分自身の餌をとるときや、外敵が近づいたときなどをふくめて、一日のうち何回か巣を離れる事態が生じる。そのたびに卵は水草でおおわれることになる。親鳥の卵かくしの動作を何度か観察したことがある。まず体のまわりの水草を嘴で引きよせ、ついで中腰のまま、体をずらして卵に水草をかける。この動作を数回くり返して卵を完全におおってしまう。ヨタヨタした足どりで巣のへりから水上へ滑りだすが、浮いたままの姿勢で、卵が見えていないかどうかを確認したのち、水中に潜って去る。

 敵が接近し、危険がせまったときは、一瞬のうちに卵をかくし、ただちに潜水し、巣を離れるが、よほど突発的でないかぎり、卵は完全にかくされており、その卵かくしは瞬間的であり、見事というほかはない。

 カイツブリの水上の巣は、陸上からの外敵には安全な場所かも知れない。しかし、水面をたくみに泳ぎまわるヘビは、油断のならない憎むべき敵である。浅い水は獣たちも近づくであろうし、脚の長いサギ類もまた恐しい攻撃者である。たいていの場合、巣は植物におおわれた所につくられるが、開けた池の真中の巣では、空からの敵、たとえばカラスに対しては無防備である。卵をかくして外出するという習性も、このような空からの侵略者に対して獲得した習性であろうか。カイツブリの浮き巣づくりと卵の保護は、ふつうの小鳥には見られない興味深く、心暖まる習性である。カイツブリは、古くは鳰(にお)と呼ばれた。

 子と思う鳰の巣のゆられきて 源頼政

   

カイツブリ カイツブリ目 カイツブリ科
  雄雌同色、夏羽では体の上面は黒褐色、頸の側面と前頸、頬は栗色、胸は淡褐色でそれ以下の下面は白色、下嘴の基部には白色の皮膚の裸出部がある。嘴は黒、脚は緑色をおびた黒灰色である。虹彩は黄色、冬羽では頸、頬の栗色が消え、体の上面の色も淡くなる。
 嘴峰 19-23mm、翼の長さ 94-108mm、尾の長さ 30-36mm、 34-38mm、開長平均 428mm、全長平均 258mm、体重平均 190g。
 北海道から流球まで広く分布する。本州北部から北では夏鳥となる。日本産と異なる亜種は広くヨーロッパ、アフリカ、インド方面にも分布する。

英語名 Little Grebe
   学 名 Podiceps ruficollis (Pallas)

前ページへ 目次へ 次ページへ