新・神戸の自然シリーズ1 神戸のトンボ
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3-6.幼虫(ヤゴ)の世界

 幼虫は日本では俗にヤゴとよばれます.水中で生活をしている昆虫は結構いますが,ミズカマキリやタガメなどとくらべて,ヤゴはえらをもっているという点で,よりいっそう水中生活に適した体のつくりをしているといえましょう.えらは直腸という肛門のすぐ内側の腸の中にあって,肛門から水をすいこんで,その中に溶けている酸素をとりこみ,二酸化炭素をその水に返してふたたび肛門からはきだし呼吸します.

 ヒトの場合酸素は血液中の赤血球によって運ばれます.昆虫にも血液はありますが,ヒトの赤血球のように酸素を運ぶための特化した細胞はありません.かわりに気管とよばれる管が体中を枝分かれしながら走っていて,これによって体のすみずみまで酸素がそのままの形で送られます.この気管が外に向かって口を開いているところが気門です.陸上で活動している昆虫ではこの気門から空気が出入りします.ヤゴではこの気門は閉じていて,直腸のえらから酸素が気管内に入るわけです.

 均翅類には,尾さいとよばれる呼吸のためのものと考えられている構造物が,腹部の先端にふつう3枚ついています.これらは不均翅類肛上片(1つ)および肛側片(2つ)という構造物と同じ起源をもつものとされています.イトトンボ類の尾さいには気管が枝分かれするように広がっていて,呼吸のための器官であることがうかがわれます.しかし,この尾さいはよく根元からとれてしまうことがあり,それでもヤゴは平気で生きていますから,そのはたらきについてははっきりしないところがあります.

写真3-13.ルリイトトンボの尾さい.tr.気管(分枝). 写真3-14.砂底にもぐるヤマサナエの幼虫.

 ヤゴは肉食です.ヤゴの多くは泥の中にもぐったり,落ち葉のすき間にかくれたりして近くに小動物がやってくるのを待っています.そして射程距離に入ったなら,目にも止まらぬはやさで折りたたみ式の下唇(→p.127)をのばし,獲物をつかまえます.

 またギンヤンマのなかまをはじめとする複眼の発達したヤゴは,獲物に近づいていってつかまえます.飼育しているときに小さな虫を入れてやると,まるでネコがそうするようにそろそろと近づき,失敗してにげられては獲物を追いかけまわし,そのさまがこっけいです.

 またルリボシヤンマなどでは,慣れてくると,上からエサをやろうとしたときに,水面から顔を出してエサをとろうとするしぐさをします.ピンセットを近づけるとそれにも食いつきます.これらのヤゴは成長期には水面近くで生活しており,おそらく水面に落ちた小昆虫も食べているものと思われます.

 ヤゴは10回弱から十数回の脱皮をして,最後に成虫への脱皮,羽化をします.同じ種でも,また同じ池や川にすんでいる同じ個体群(一つの地域にすむ同じ種の集団を表すことば)の中でも,この脱皮回数は異なっていることがあります.これは温度やエサの条件が個体ごとに異なるので,同じように成長できないからであると一般に考えられているようですが,私は,キイロサナエを使った自身の研究から,脱皮回数の変化は,幼虫期間および幼虫のサイズに関係があって,種によっては羽化の時期を調節するための積極的な役割をになっている場合もあるのではないかと考えています.

 ヤゴでくらす期間は種によって大きくちがっています.飼育記録からみると,短いものでウスバキトンボホソミイトトンボの30日前後,長いものではムカシトンボの5〜8年というのがあります.

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